【燃料電池車 開発動向】日産は商用化計画を凍結、トヨタは年産台数を10倍に引き上げる計画

2018.10.03
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本稿では、燃料電池車(FCEV)の開発・生産の現状と各国の普及策やインフラ整備動向をまとめる。後半では、トヨタのFCEV生産の現状と今後の見通しについて、米国人自動車アナリストによる寄稿レポートを掲載する。

世界的な動きとして注目されるのは2017年に発足したHydrogen Councilである。この団体は、水素エネルギー活用社会の推進や関連技術開発のためのフレームワーク策定を行うことを主な目的とする。2018年3月には長城汽車など新たに11社が加わった。2018年6月には初の中国フォーラムを北京で開催し、中国におけるFCEVのプレゼンス向上への取り組みを強化している。

ドイツをはじめとする欧州では、Daimlerや石油元売り大手などが2015年に結成したコンソーシアムH2 Mobilityが水素ステーションの整備を進めている。整備計画は当初の予定よりも遅れ気味であるが、2018年7月までにドイツ国内だけで44ヵ所の水素ステーションが稼働している。日本では2018年3月にJapan H2 Mobility(JHyM)が設立され、2022年までに国内80ヵ所の水素ステーションを開設すると発表した。

自動車メーカーの間ではFCEVに対するスタンスの違いが明確になってきた。電気自動車への注目が高まる中で、FordとDaimlerは2018年6月、水素燃料共同開発提携の解消を発表。両社は今後独自に開発を継続するが、開発プロジェクトに参加していた日産のFCEV開発は事実上止まった。

一方で新たに提携を結んだメーカーもある。Audiは現代自とのFC技術開発提携を2018年6月に発表した。またAudiは、2013年から開発提携してきた燃料電池サプライヤーBallard(カナダ)との契約期間をさらに4年間更新し、2022年までの小規模量産化を引き続き目指す方針である。

トヨタは2018年5月、MIRAIの生産を2020年以降に現行10倍の3万台規模に拡大し、MIRAIを含むFCEVの年間販売を3万台以上に引き上げる目標を示し、それに向けた生産設備新設計画を発表した。

国・業界団体、最近の主なFCEV プロジェクト関連動向(2018年1~7月)

主要国・地域における2018年6月末時点で稼働中の公共水素ステーションの数は、EU全体は70 (うち、ドイツ44)、米国は35 (すべてCalifornia州内)、日本は99である。

世界

▽Hydrogen Council

トヨタ、ホンダなどの自動車メーカーが中心となって発足したHydrogen Councilは2018年3月、Great Wall Motor、Bosch、3Mなど11社が新たなメンバーとして参加したことを発表した。欧州・米国・アジア地域で水素燃料普及や関連技術開発のためのフレームワーク策定、活動内容の方針決定などを行う。

ー 11社の参画で、活動の中核となるSteering Memberが24社、活動を支援するSupport Memberが15社となった。

2018年6月、Hydrogen Councilは、中国北京でフォーラムを開催。欧州、米国、日本、韓国についで水素燃料普及が望める地域とし、プレゼンス強化を図った。中国政府はこれを受け、2025年までに300ヵ所、2030年までに1,000ヵ所に水素ステーションを設置する計画を発表した。

ドイツ

▽NOW

ドイツ連邦政府大各団体が設立した水素・燃料電池機構(NOW)は2018年3月、ドイツ国際開発協力協会(GIZ)と国境を超えた水素燃料開発推進での協力に合意。関連プロジェクトを支援していく。

NOWは、水素・燃料電池技術国家技術革新プログラム(NIP)、ドイツ国内に50基の水素ステーションを設置する目的で発足したクリーンエナジーパートナーシップ(CEP)などを介し、参加企業団体に資金援助も行っている。NIPには23の現行プロジェクトがある。

2018年3月、ドイツWolfsburgに公共の水素ステーションが設置され、開所式が行われた。Niedersachsen州で初の公共水素ステーション。CEPの活動の一環で、ドイツ連邦運輸デジタルインフラ省(BMVI)から約9億ユーロの補助を受けて建設された。

2018年6月、ドイツ自動車メーカーを中心としたドイツ政府支援コンソーシアムプロジェクトAutoStack Industryが、燃料電池スタック開発・規格に関してサプライヤーとの対話を開始した。2020年ごろまでに欧州地域での規格統一を目指す。同プロジェクトはNIPより2,130万ユーロの支援金を獲得。

▽ドイツ政府(BMVI)

2018年5月、BMVIは乗用車フリート・公共交通機関のバス向けに、FCEV購入補助金プログラムを発表。最大で1,500万ユーロまでを投じる。

ー 3台以上のFCEV購入などの条件クリアで応募可能。水素インフラへの投資社も支援対象となる。応募締切は2018年6月末。

▽H2 Mobility

DaimlerやShellなどの出資により設立されたドイツの水素インフラ整備合弁会社H2 Mobilityは、2019年には水素ステーションを100ヵ所稼働させる計画である(2018年7月時点では44)。

その他欧州

2018年1月、ドイツ、フランス、英国など欧州14都市で水素を燃料とする電動バス普及を促進するため発足されたプロジェクトJIVE 2が始動した。合計152台の水素燃料バスを対象都市で運行する目的で、1億593万ユーロを投じる。

JIVE 2は、2017年に発足したJIVEプロジェクトの拡張。JIVEプロジェクト全体で、2020年前半までに欧州22都市で300台程の水素燃料バスの運行を計画している。アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、オランダも含まれる。

2018年6月、フランス環境相Nicolas Hulot氏は水素燃料に関する戦略的ロードマップを発表。自動車・鉄道などの関連プロジェクトに総計1億ユーロを支援するとした。フランス政府は、国内のCO₂排出を2030年までに10~20メガトンを削減し、2055年までには50メガトンの削減を目指す。

フランス政府は、2023年までに5,000台の小型商用車と200台の中大型商用トラックが国内を走行すると想定しており、2028年までにそれぞれ2万~5万台、800~2,000台まで増加すると予想。同需要に対応するため、水素ステーションを2023年までに100基、2028年までに少なくとも400基を建設する計画である。

米国

米国エネルギー省(DOE)の化石エネルギー部は2018年6月、固体酸化物形燃料電池(SOFC)技術に関する16のR&Dプロジェクトを選出し、総額で約1,350万ドルの補助金を授与すると発表した。電力密度の向上、システムパフォーマンス劣化の抑制、素材や生産過程改善によるコスト低減などの研究を支援する。

2018年1月、米国California州知事は、2030年までにCalifornia州内のゼロエミッション車(ZEV) 500万台の普及を目指し、州知事令B-48-18に署名した。2025年までに25億ドルを投じ、州内に200基の水素充填ステーションと25万のEV給電ステーションを増設する。

日本

2018年3月、トヨタ、ホンダなどを中心に、日本国内向けにJapan H2 Mobility(JHyM)が設立され、2022年までに国内に80の水素ステーションを開設すると発表した。

参加メンバーはトヨタ、日産、ホンダ、出光、東京ガス、東邦ガス、豊田通商などを含む11社。

韓国

韓国政府は2018年6月、今後5年間で、国内のFCEV普及に2.6兆ウォンを投じ、水素ステーションの拡充やFCEV関連の工場設立などにたいし資金支援するとした。

2022年までに、水素ステーション310基(都心150基)を設置し、1.6万台のFCEVに対応する目標を掲げた。2022年までに1.6万台のFCEV普及を目指す。

主要自動車メーカー・サプライヤー、最近のFCEV関連動向(2018年1~7月)

自動車メーカー

▽トヨタ

2018年5月、トヨタは2020年以降のFCEVの年間生産を3万台に引き上げる計画を発表。それに伴い、基幹ユニットとなる燃料電池(FC)スタックと高圧水素タンクの生産設備拡充を決定した。東京オリンピックを見据え、MIRAIやFCバスを含むトヨタブランドFCEVの2020年以降の販売台数が3万台以上(うち、日本販売が1.2万以上)になると見込んだ決定。

本社工場敷地内にFCスタック生産用建屋、下山工場の第三工場内に高圧水素タンク専用ラインのための生産設備を新設する。

2017年の生産台数は3,000台。10倍増の生産台数を掲げる。2017年のMIRAIの販売台数は2,700台。2014年に発売が開始されてから2018年6月末までの累計販売台数は7,500台。

その他詳細は、下記「トヨタ、水素燃料電池車(FCV)戦略」参照。

2018年6月、トヨタと大手コンビニチェーンのセブンイレブンは、試験的にトヨタの水素燃料小型トラックをセブンイレブンの運送に導入することで基本合意した。

小型トラックには、MIRAIの燃料電池ユニットと水素タンクを搭載。ユニットで発電した電気は商品の冷蔵・冷凍にも使用される。約7kgの水素を積載でき、フル充填で約200kmの走行が可能。トヨタは、同トラックの1日あたりの水素使用想定量をMIRAIの30~35倍程度としており、水素インフラ拡大の重要性も語った。小型トラックは2019年春に導入され、実証実験が開始される。

2018年4月、トヨタはShellのエネルギー事業Equilon Enterprisesと米国California州で商用車用水素ステーションの建設で協業することを発表。Equilon Enterprisesがトヨタの物流拠点に大型水素ステーションを建設し、運用する。

その他、2018年4月、豊田市、東邦ガスなどの県内企業・自治体および有識者で構成する「あいち低炭素水素サプライチェーン推進会議」で決定した2030年ビジョンとロードマップを発表している。

▽現代自/起亜

現代自は2018年2月、次世代FCEVのSUVモデルNEXOが韓国ソウル市から平昌市間の約190kmを高度自動運転モード(L4)で完走したことを発表した。NEXOは、2018年1月にCES 2018で現代自が世界初公開した、Tucsonに続くFCEV第2弾。SAE基準でL4に対応する。

出力135kW(水素燃料電池95kW、バッテリー40kW)。モーター出力120kW、トルク291lb.-ft.(約394N・m)。1充填の航続距離は約800km(NEDC)。5分で充填が完了する。2018年中期、欧州地域で販売が開始される。

▽Audi

2018年6月、Audiは現代自と水素燃料技術開発において提携すると発表した。提携では、両社が持つ関連の特許や部品の共有などを認める。また、この合意には、今後出願する技術も含まれる。

水素供給装置やモーター、燃料電池スタックなどを、両社が開発している次世代モデルに搭載する予定。

Audiは、ブランド初となるFCEV(フルサイズSUV)を2020年前半に少量生産モデルとして打ち出す計画。

AudiとBallard(カナダ)は2018年6月、既存の技術ソリューションHyMotionの契約期間を延長することで合意した。HyMotionは、燃料電池スタック開発や設計サポートなどを含む。Ballardは、Audiのデモンストレーション用プログラムのための次世代燃料電池スタック設計と製造に注力。

HyMotionプログラムは当初(2013年3月)、BallardとVW間での4年契約であったが、2015年2月に2年延長(2019年3月まで)。今回の合意により、契約期間は2022年8月まで延期される。

▽Daimler

2018年7月、Daimlerは主力商用車モデルSprinterに燃料電池仕様の追加を発表。Concept Sprinter F-CELLとして公開した。

SUVモデルであるGLCをベースに開発中のGLC F-CELLで培ったノウハウをSprinter向けに拡張。GLC F-CELLと同じプラグイン仕様のFCEVとした。Concept Sprinter F-CELLの出力は約147kW、トルクは350N・m。3つの水素タンクを搭載し、合計で4.5kgの水素を充填できる。航続距離は約300km。

2018年3月、DaimlerはプラグインハイブリッドFCEVであるGLC F-CELLの量産準備を開始した。同SUVは、ドイツBremen工場で生産される。2018年内に、購入者へ納車開始。

▽Ford

2018年6月、FordはDaimlerとの水素燃料共同開発提携を解消することを発表した。共同開発での提携解消に伴い、両社は自動車向け水素燃料開発合弁会社Automotive Fuel Cell Cooperation (AFCC、カナダ)から手を引く。両社は今後、独自に水素燃料の開発を進めていく計画。

同提携解消により、2013年からプロジェクト参加していた日産の水素燃料共同開発も凍結したとみられる。

自動車サプライヤー

▽Ballard

2018年7月、固体高分子形燃料電池の開発・生産を手がけるBallardは、Daimler、Fordが株式を持つ自動車向け水素燃料開発合弁会社AFCCから戦略資産を買収することを明らかにした。買収した1.1万平方フィートほどのスペースには、試験設備、プロトタイプ生産設備、品質検査設備などが含まれる。

AFCCは、Ballard から自動車向け燃料電池開発向けに2008年にスピンオフした企業。その後、Daimlerが株式を50.1%、Fordが30.0%取得(Ballardは19.9%所有)。2009年にはFordがBallardの持ち株を全て取得し、49.9%の株を所有した。DaimlerとFordが水素燃料開発の提携解消を発表したのは2018年6月のこと。

その他Ballardは2018年1月以降、米国California州や中国上海で現地の運輸会社などと提携し、自社開発の燃料電池モジュールの試験実装やシステム供給に積極的に取り組んでいる。

トヨタ、水素燃料電池車(FCV)戦略

以下のレポートは、米国の自動車業界アナリスト Roger Schreffler 氏による、トヨタのFCV開発動向に関する寄稿である。

 

水素燃料電池車(FCV)のグローバル展開計画

2014年にMIRAIの販売が日本で開始されて以降、米国、欧州、カナダと販売地域を広げ、2018年6月末までにトヨタはMIRAIを7,500台売り上げた。環境規制が厳格なCalifornia州では、2018年1月時点で累計3,000台が販売された。

また、今後のさらなる水素燃料電池車(FCV)販売普及・拡大に向けた準備のため、トヨタはカナダ、オーストラリア、中国、アラブ首長国連邦でMIRAIの走行実験を行い、FCVのニーズ把握や水素ステーション整備促進に向けた取り組みを行っている。

こうした需要調査や販売地域拡大のための環境整備を推し進めるトヨタは2018年5月、MIRAIなどのFCVや水素燃料(FC)バスの2020年以降の年間販売台数を3万台以上にする目標を示し、そのうちの日本での販売目標を年間1.2万台程に定めた。また、現在東京都に5台程販売しているFCバスも、2020年の東京オリンピックを見据え、100台以上の販売を目指すとした。

このほか、国際的な水素インフラ・FCV普及拡大に向けてのHydrogen Councilの創設やJapan H2 Mobilityの設立、米国での水素インフラ向け設備投資、日本での低炭素水素の供給・利用サプライチェーン構築など、積極的に水素社会実現に向けた活動を行っている。

FCV生産計画

2018年5月、トヨタはFCVの事業プランを促進する大きな次の一歩を踏み出した。FCVの年間生産を、3万台レベルまで引き上げるという。これは、現行年間生産3,000台の1桁増の生産レベルである。トヨタは、現行の年間生産レベルで、2016年の2,000台、2017年の3,000台という生産台数目標を達成してきた。

また、2018年、2019年の目標である3,000台も、月間生産台数250台でクリアする見通しだ。では、10倍となる3万台を達成するには、具体的にどう対応するのか。

トヨタは2020年以降のトレンドを見据え、基幹ユニットである燃料電池(FC)スタックと高圧水素タンク生産設備の拡充を決定。本社工場敷地内にFCスタック生産用建屋、下山工場の第三工場内に高圧水素タンク専用ラインのための生産設備を新設することで、年間生産3万台に対応する考えである。発表によると、FCスタック生産用建屋は8階建てで、延床面積約7.0万m2。三好市近郊の下山工場の専用ライン面積は、約1.5万m2となるとした。

トヨタは、この拡張によって水素スタックは月産2,500基(年産3万基)、高圧水素タンクは月産5,000本(年産6万本)が可能になると見込む。これは、現行生産能力の10倍にあたる。MIRAIは、1台あたり1基のFCスタックと2本の高圧水素タンクを搭載しており、その水素貯蔵量は合計で5kgである。これら新施設の稼働開始は、2020年を予定している。

FCV生産に伴い、トヨタ本社の工場敷地内に新しくできるFCスタック生産用建屋の完成予想図。(写真:トヨタ広報資料)

MIRAIは現在、豊田市元町工場で生産されている。1日あたりの生産台数が13台、1シフトで6.5台の計算である。実際の生産能力は、14台/日としている。

工場関係者によると、水素タンクとFCスタック供給が生産能力増強において一番のネックであるという。現在は本社工場の小口ラインでFCスタックと水素タンクを組み立てており、それらを元町工場までトラックで輸送しているのだ。そしてこれは、サプライヤーであるデンソー、アイシン精機、トヨタ紡織などから供給される1,700程にもなるその他コンポーネントやユニットにも同じことが言える。

また、本社工場は、MIRAIのほかにもトヨタの商用トラック・バスを手がける日野(FCバスSora)やトヨタグループ会社(FCフォークリフトなど)にもFCスタックや水素タンクを供給しているということも加味すべきである。

2018年3月に発売されたSoraに関しては、1台につき2基のFCスタック、10本の水素タンクが必要になる。また、MIRAIの航続距離が500kmに対して、Soraの航続距離が200kmであることも記しておきたい。

FCVの現在の生産体制

MIRAIの組立工場となる元町工場は、3つのステーションとシートを組み立てる1つのサブステーションから構成されている。第1ステーションでは、リアコンビネーションランプとリアバンパー、インストルメントパネルとHVACシステムがインストールされる。第2ステーションでは、FCスタック、水素タンク、電動モーターなどのパワートレインコンポーネントのインストールが行われる。そして第3ステーションで、シート、ドア、インテリアトリム、窓が取り付けられる。

シート組み立ても含めたそれぞれのステーションでのタクトタイムは75分で、1台のMIRAIにつき全体で4時間弱かかる計算である。スタンピングやウェルディング、ペインティングは同工場内のメインラインであるLexus GSやLCを扱うラインで行われる。

トヨタ MIRAIが生産されている元町工場でのMIRAI組み立ての様子。

トヨタの「次の一手」

巷では、2020年夏季東京オリンピックの前にMIRAIの小型車仕様が登場する可能性が示唆されている。Lexusの幹部は、LexusブランドからFCVモデルが将来登場する可能性を否定していない。

しかし明らかに、元町工場だけでは2020年目標の達成は厳しい。元町工場はそもそもスーパーカーであるLexus LF-Aの生産のために作られた工場で、1日125台、年間3万台の生産を行うようには設計されていない。この元町工場には、コンベアラインもなく、1シフト13人の作業員で1度に3台までしか組み立てができないのだ。

トヨタ側はコメントを控えているが、MIRAIを元町工場のLexus GSやLCモデルなどのメイン組み立てラインに移管できないというわけではないと推測される。実際、トヨタは2003年に第2世代PRIUSハイブリッドの生産を元町工場から同じ豊田市内にある高岡工場に移している。MIRAIを他の生産ラインに移管する可能性があってもおかしくない。

また、こうした中、トヨタは2018年3月に行われた国際水素燃料電池展で、2020年のFCV生産拡大に伴いFCシステムコストが2015年比の50%程になるとの見解を示した。同時に、トヨタはスタックのサイズを現行より30%減らすことを目指している。さらにトヨタは、量産プロセスの改善と水素タンクの汎用グレードへの転換により、生産コスト削減も期待している。

トヨタ MIRAIとFCスタック、水素タンクが並んだ写真。

(写真:トヨタ広報資料)

一方で、トヨタは2017年12月、FCVの開発プログラムの焦点をシフトし、将来はバスやトラックなどの商用車への展開に比重を置くとしている。トヨタの研究員は、FCVは大型車や長距離移動で高いポテンシャルを発揮するとみており、ユニット重量あたりのエネルギー効率は、バッテリーよりFCVのほうが良いとしている。

実際トヨタは、セブンイレブンとの日本でのFCトラック試験運用(2019年~)の提携に合意しており、既に米国California州Los AngelesとLong BeachでClass 8の大型トラックの試験を行っている。

日本政府のFCV普及ロードマップでは、FCV販売は2020年に4万台となっている。言及はされていないが、殆どのFCVがトヨタであると思われる。販売台数は、2025年には20万台、2030年には80万台に伸びると予測されている。また、日本政府は2025年までにFCVの販売価格が下がることを期待している。

2017年12月に発表されたトヨタの電動化計画によると、トヨタは2030年のトヨタブランドの乗用車・トラックを合わせた世界自動車販売台数を1,000万台に設定しており、うち100万台を電気自動車・FCV販売とすることを目標に掲げている。この予測には、ダイハツや日野、その他関連ブランドは含まれていない。

トヨタはこの予測の割合詳細について言及していないが、2030年時点では電気自動車のシェアのほうがFCVより多いと予想されるため、その時点でのFCV販売台数は50万台以下になるとみられる。

また、トヨタはPRIUS Prime (日本名PRIUS PHV)などのプラグインハイブリッド車などを含むハイブリッド車の販売台数が450万台になるとみており、トヨタの2030年世界自動車販売台数の半数以上が電動車になると想定している。

サプライヤー

トヨタは引き続きサプライヤーをトヨタ系列で固める方針である。デンソーは、MIRAIのラジエーター、ラジエーターファン、冷却水制御用バルブ、電動ウォーターポンプなどを含むクーリングシステムやエアフローメーターなどを提供している。その他デンソーは、温度センサーや高圧センサー、赤外線送信機、水素充填制御ユニット、電子制御ユニット、インテリジェントパワーモジュール、パワーマネジメントECU、電圧モニターなども供給している。

アイシン精機はエアバルブモジュール、JTEKTは高圧ガス・圧縮低減バルブ、豊田自動織機はエアコンプレッサーと水素循環ポンプおよびポンプインバーター、トヨタ紡織はセパレーター、スタックマニフォールドなどを担当。トヨタ紡織は他にもMIRAIのシートを、JTEKTはコラムアシストステアリングユニットや軽量で低フリクションのハブを供給している。

競合他社の最近の動向

韓国では、現代自は水素燃料電池車モデルTucsonを2017年に250台販売した。2018年2月には、次世代水素燃料電池車NEXOの生産を韓国蔚山広域市にある工場で開始した。現代自は、NEXOの2018年の生産目標台数を3,000台としている。

この目標台数をクリアするため、現代Mobisは大規模なFCパワートレイン工場を韓国忠州市に新設。メンブレンエレクトロード/スタックアッセンブリ、シャシ・ワイヤリングアッセンブリ、FCシステムと推進モーターなどをパワートレインモジュールとして組み立てる。

また、現代自は、韓国政府が2025年に国内で10万台の水素燃料電池車と210の水素ステーション普及を計画しているとした。韓国政府のロードマップでは、2030年には水素燃料電池車の普及が63万台、水素ステーションが520ヵ所に拡大するとの予測である。

その他地域でも水素燃料電池車普及に向けての動きがある。中国政府は2025年までに5万台の水素燃料電池車をサポートするため、300の水素ステーションの建設を計画中である。ドイツ政府の計画では、2023年に20万台の水素燃料電池車を普及させ、400の水素ステーションが設置される予定である。

米国では、水素燃料電池車の普及拡大で先進しているCalifornia州が、2020年までに州内に水素ステーションを90ヵ所設置する計画だ。また、GMがホンダと協業し、2020年FCシステムの生産を開始する計画を発表している(2018年6月)。

 FOURIN世界自動車技術調査月報(FOURIN社転載許諾済み)

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