VWの内燃機関開発戦略
2017.11.09VWの排ガス規制対策
積極的な電動車戦略を打ち出す一方で、VWは内燃機関開発にも注力する。
電動化戦略が計画どおりに進展したとしても2025年の時点でなお75%のモデルが内燃機関を搭載している。2020年代のCO₂規制に対応するために内燃機関の燃費改善は不可欠であり、2022年までの5年間で100億ユーロをこの分野に投じる。ガソリンエンジンとディーゼルエンジンは、排気量1.0ℓ直3、1.5ℓ直4、2.0ℓ直4、3.0ℓV6の4種に集中投資し、グループ内で共有する。
さらに、燃料採掘段階からのCO₂排出を考慮するWell to Wheelの観点でCO₂排出を削減するために、CNGエンジンの開発を進めてきたが、今後は搭載モデルを増やす。排ガス規制対策として、ガソリンエンジン車ではガソリン粒子フィルター(GPF)、ディーゼルエンジン車では選択還元触媒(SCR)を標準搭載する。
VWのエンジン開発戦略-SCRとGPFを標準搭載、CNGエンジンも開発-
▽内燃機関開発を継続
・VWは電動化に注力する一方で、完全な電動化までの技術的架け橋として、内燃機関の開発も継続する。
▼2022年までに総額100億ユーロを内燃機関開発に投資。
▼Strategy 2025によれば、VWグループの新車の75%が2025年時点でなお内燃機関を搭載することになる。
▽内燃機関の開発目標と概要
・2020年までに燃費を10~15%改善する。
▼低燃費化・低排ガス化を施した新開発エンジンを2019年に投入予定。
・VWグループは、これまでエンジンのダウンサイズ化を進めてきたが2016年頃から運動性能とのバランスも考慮して最適な排気量を選択するライトサイズ化に方針転換。
・排気量1.0ℓ直3、1.5ℓ直4、2.0ℓ直4、3.0ℓV6の4種に集中投資し、グループ内の複数モデルで共有する。
▼全ての排気量でガソリンとディーゼルをラインアップし、1.0ℓと2.0ℓにはCNGも揃える。
▼ガソリンエンジンEA211の欧州向け出力設定は、1.0 MPI evoが48~59kW、1.0 TSI evoが66~81kW、1.5 TSI evoが96~130kW。
▼ディーゼルエンジンEA288の欧州向け出力設定は、1.6 TDIが66~85kW、2.0 TDI/2.0 TDI BiTurboが81~176kW。
▼ハイブリッド車への搭載を前提に、より低燃費・低排ガス化した新型ディーゼルエンジンを開発中である。
・再生可能エネルギーから作られるカーボンニュートラルな合成燃料に適したエンジンやCNGエンジンに注力。グループ内のAudiが中心になって開発している*。
▼新たにA0セグメント(VW基準)のVW Polo、SEAT Ibiza、Škoda Rapid、Bセグメント(同)のAudi A4/A5にもCNGを加える。
▽排ガス低減策
・今後発売するディーゼルエンジン車には選択還元触媒(SCR)を標準搭載する。
▼従来はNOx吸蔵還元触媒(LNT)やディーゼル粒子フィルター(DPF)が排ガス対策の中心で、SCR搭載モデルは少数。
・ガソリンエンジン車では、2016年夏発売の2017年モデルから、ガソリン粒子フィルター(GPF)を標準搭載している。
▽ガソリンエンジンEA211 TSI evoの技術的特徴
・2016年下期から新型のガソリンエンジンEA211 TSI evo (1.0ℓと1.5ℓ)を投入し、既存の1.4ℓ TSIを段階的に廃止している。
・EA211 TSI evoには、12.5:1の高圧縮比と、吸気バルブを早閉じするミラーサイクルを組み合わせた新しい燃焼サイクルを導入。
・エンジンの低回転域でも高いタービン出力を可能とする可変タービンジオメトリ(VTG)を量産ガソリンエンジンで初採用。
・12V電源とリチウムイオンバッテリーによるマイクロハイブリッドシステムを搭載。これにより、定速巡航時にはエンジンを切り離し、コースティング走行が可能。
・燃料噴射システムにはマルチホールインジェクターを採用。最高噴射圧は1.5ℓが35MPa、1.0ℓが25MPa。
▼燃料を微細化して燃焼を促進し、PN(粒子状物質数)を削減。
・インタークーラーをコンプレッサー出口の下流、スロットルバルブ手前のプレッシャーパイプに設置し、冷却性向上。
・プログラム制御式の冷却モジュールを導入。コールドスタート時には冷却水を循環させず暖機を促進する。
・110kW仕様では、アルミ製クランクケースのシリンダーライナーにAPS(大気プラズマスプレー)によるコーティングを施した。
・気筒休止システム(Active Cylinder Technology、ACT)とシリンダーヘッド一体型エキゾーストマニホールドを引き続き採用。
▽ディーゼルエンジンEA288の技術的特徴
・現行のディーゼルエンジンEA288(1.6ℓと2.0ℓ)は、モデルベースの燃焼制御システムを採用。
・SCR搭載排ガス浄化装置をエンジンに近接配置し触媒の還元率を高めた。
・出力状況に応じて循環経路を制御可能な低圧/高圧の排気再循環装置(EGR)を引き続き搭載。
・チャージエアクーラー統合インテークマニホールドにより、エンジン全体を小型化しつつチャージエアの冷却効率を高め、エンジン出力を向上させた。
VWの変速機戦略
―6速/7速のDCT/MTを内製、PHEV用変速機Vario Driveを開発―
▽変速機戦略
・6速/7速のDCT(DQ)とMT(MQ)を内製し、主力モデルに搭載。
▼伝達可能トルク100~600N・mを幅広くカバー。
・8速ATをZF、アイシン・エィ・ダブリュ、8速DCTをZFから調達。
▼VW TouaregやPorsche Cayenne、Panameraに搭載。
・10速ATについては、2013年4月のWienエンジンシンポジウムで当時のCEOが開発を表明したが、2017年5月、パワートレイン開発責任者のFriedrich Eichler氏は開発の中断を明言した。
▼「2ヵ月前に試作機が壊れた。多いこと、大きいことは良いことという古いVWの企業文化を象徴しており、時流に適していない。データは保存したが開発を再開するかは未定」としている。
▽PHEV用変速機Vario Drive
2017年7月、VWはPHEV向けに開発中の変速機Vario Driveの試作機を公開した。量産時期は未定。
▼試作機はVWグループの縦置きプラットフォームMLBの前輪駆動(FF)モデル向け。全輪駆動(4WD)との切替はできず、4WD化にはリアアクスルにモーターを追加して対応する。
▼4段の前進ギア、2段の可変ギアに加え、変速機の後方に5段切替式のモーター(出力150kW)を配置。
▼トルコンATとCVTの特徴を併せ持つ点で、トヨタのFR用マルチステージTHS II (アイシン・エィ・ダブリュ製)とコンセプトや狙いは類似したシステムである。
(VW広報資料、各種資料、ヒアリングを基にFOURIN作成)
<FOURIN世界自動車技術調査月報(FOURIN社 転載許諾済み)>