VWの車体開発戦略―電動車・大衆モデル・高級モデル別―
2017.11.13VWのモジュールアーキテクチャ戦略
VWはモジュールアーキテクチャ戦略を2012年に導入し、旧プラットフォームからの置換を進めてきたが、2026年までに置換を完了する予定である。
モジュールアーキテクチャには複数の種類がある。主力は横置きエンジン搭載のB/C/Dセグメント車向けMQBと、縦置きエンジン搭載の中大型車向けMLBである。後者はAudiが中心になって開発している。
VWはBEV専用アーキテクチャMEBも開発中で2019年にMEB採用の第1号モデルを発売予定である。さらに、MLBに対応するBEV専用アーキテクチャPPEをAudiとPorscheが共同で開発している。
車体に使用する素材に注目すると、Audiなどの高級モデルでは軽量化を狙ってアルミと鋼を併用するマルチマテリアル化を推進。多彩な機械的接合技術を導入している。普及価格帯モデルでは軟鋼や高張力鋼を中心に、Bピラーなどの要所で超高張力鋼や熱間成形鋼(ホットスタンプ鋼)を使用している。
BEV専用アーキテクチャと内燃機関搭載車向けアーキテクチャ
▽VWグループのモジュールアーキテクチャ戦略の概要
・VWグループはモジュールアーキテクチャ(MQB)を2012年に導入し、旧プラットフォーム(PQ)からの置換を進めてきた。
・MQBへの置換は2026年に世界全地域で完了する予定。
・新たに電動車専用モジュールアーキテクチャ(MEB)を開発中で2019年に導入予定である。
<VWのプラットフォーム開発ロードマップ> ・AudiとPorscheは、2017年4月に車体アーキテクチャの共同開発で合意した。VWグループ内で超高級モデルをラインアップに持つAudi、Porsche、BentleyはモジュールアーキテクチャのMLBやMSBを一部モデルで既に共通採用しているが、今後は採用モデルがさらに増えると見られる。
▼また、AudiとPorscheは共同で、電動車専用アーキテクチャ(PPE)を開発中である。Bentleyなど、他のグループブランドのMLBモデルにも展開される可能性が高い。
・2016年6月のStrategy 2025では、多くの派生アーキテクチャの登場によりモジュールアーキテクチャ戦略が複雑化し過ぎていることに言及。今後はアーキテクチャ数を絞り込む方針を示した。
▽モジュールアーキテクチャ
・現在の主なモジュールアーキテクチャは以下のとおり。※ ( )内はVWのセグメント分類。
▼NSF:Aセグメント(A00)車向け。
▼MQB:B/C/D(A0~B)セグメントの横置きエンジン車向け。ここにはさらに細かく、B(A0)セグメント向けのMQB-0、C(A)セグメント向けMQB-A/A2、D(B)セグメント向けMQB-Bがある。
▼MLB:中大型の縦置きエンジン搭載車向け。Audi主導で開発。
▼MSB:超高級FR車向け。Porsche主導で開発。
▼MMB:超高級MR車向け。Porsche主導で開発。
▼MNB:小型商用車向け。
<モジュールアーキテクチャと対応セグメント>
▽BEV専用アーキテクチャMEB
・VWは、MQBやMLBなどのモジュールアーキテクチャをベースに、電動車(HEV、PHEV、BEV)をラインアップする戦略をとってきた。
・しかし、2019年に発売予定の次期VW Golf (8代目)にはBEVであるe-Golfをラインアップしない方針。
・VWはBEV専用アーキテクチャMEBの開発を進めており、2019年の量産化を目指している。
・MEBは、床下スペースにバッテリーを配置し、ホイールベースの長さを可変とすることで搭載するバッテリーの容量を変え、モデルに適した航続距離を得る方式である。
▼これまでに発表されたMEBコンセプトモデルはI.D.(ハッチバック)、I.D. BUZZ (ミニバン)、I.D. CROZZ (クロスオーバーSUV)の3種類で、幅広いセグメントをカバーしている。
<BEV専用アーキテクチャMEB>
①照明・車載電装品用途の低電圧バッテリー
②高電圧バッテリーを床下中央に配置し車軸の負荷を均等化
③後輪駆動(4WD化も想定)
④電気による駆動
⑤駆動用高電圧バッテリー
⑥ホイールは車両中央から極力遠い位置に配置し電動システムの搭載スペースを確保。
VWの車体軽量化戦略
―高級モデルはアルミと鋼のマルチマテリアル化、大衆モデルは高張力鋼多用―
▽Audi/Bentleyのマルチマテリアル車体
・VWグループの中で、特にAudiとBentleyの高級車では、アルミと鋼を複合的に用いたマルチマテリアル車体が多い。
▼最新のAudi A8では、アルミを58%使用し、さらに鋼、マグネシウム、炭素繊維強化樹脂(CFRP)を適所に使用した。
▼2015年末に発売されたBentley Bentaygaでは、アルミと鋼の使用比率が50.8:49.2とほぼ半々となっている。
▼これらの異種材の接合には、リベットやネジ、ドリルを使用するSelf Pierce Riveting (SPR)や、Flow Drill Screw (FDS)などの機械的接合技術*が随所に使用されている。また、これらと合わせて接着剤も利用されている。
▽大衆モデルでは軟鋼主体に一部に熱間成形鋼やTRB
・VWやŠkodaなどの大衆モデルでは、軟鋼や高張力鋼を中心に、剛性の必要な箇所に超高張力鋼や熱間成形鋼(ホットスタンプ鋼)を用いた車体が多い。
・鋼の板厚をシームレスに変えるテーラーロールドブランク(TRB)技術については、高級モデルと同じように、Bピラーやリアフロアクロスメンバーなど要所で採用している。
・一方、これらの大衆ブランドではアルミやCFRPの使用はほとんど見られない。
・大衆モデルの中でも比較的に高価格(300~500万円程度)のモデルにはレーザー溶接などの接合技術が採用されている。
(VW広報資料、各種資料を基にFOURIN作成)
<FOURIN世界自動車技術調査月報(FOURIN社 転載許諾済み)>