ターボチャージャー、規制対応でガソリンエンジン向けが増加、技術・コストの両面で競争激化

2018.01.12
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世界各地で進行する燃費規制強化を受け乗用車メーカー各社はエンジンのダウンサイズ化を進めてきたが、これに呼応してターボチャージャー(以下、ターボ)の搭載率も一貫して増加傾向にある。

乗用車向けターボ市場はHoneywell、BorgWarner、IHI、三菱重工の4社による寡占状態にあるが、2012年に新規参入したContinentalなどを加え、技術・価格競争は激化している。ターボメーカー各社は市場拡大による恩恵を享受する一方で、競争に勝ち抜くための開発に注力する。

ターボの搭載率が高い地域は欧州である。ターボ搭載を前提とするディーゼルエンジンの販売台数が多いためで2016年の搭載率は70.2%である。中国も30.4%とここ数年増加している。

今後はこれ以外の地域でも搭載が進み、2025年には搭載率が世界で6割近くに達するとみられる。特に米国では今後GMやFordが大型乗用車やピックアップなどでダウンサイズ化を進め、排気量3.0ℓ以上のエンジンを2.0ℓ前後に置換する。これに合わせてターボ搭載が増える見通しである。

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ターボの開発では、エンジン低回転域の排ガス流量が少ない局面での過給効率向上と、高回転域でのピーク出力の向上という二つの相反する要求を高次元で満たすことが求められる。

インペラ(羽根車)やベーン(翼)の最適形状を追求し、ベアリングシャフトなどの摺動部品のフリクションやノイズを低減し、その上で搭載するモデルに求められる特性に合わせて、ウェイストゲートバルブ(機械式/電動式)や可変流量ターボ、マルチステージターボなどの技術を組み合わせて出力を調整する。

その中でも可変流量ターボは、今後のターボ市場を左右する重要な技術である。

ターボのベアリングハウジングに搭載した複数のガイドベーンの向きを変えることでタービンハウジングに流れ込む排気の流量を制御する。低回転域では開口面積を小さくして排気の流速を上げ過給効率を高め、逆に高回転域では開口面積を大きくして抵抗を減らし、排気圧力損失を抑制する。

ディーゼルエンジンでは、ターボラグ時の酸素量不足に由来する有害物質を抑制する効果もあり、ほぼ必須の技術になりつつある。

一方で、ガソリンエンジンはディーゼルエンジンと比べ排気温度が高く、可変容量の採用は、高温に耐えうる高価格材料を惜しみなく投入できるPorscheなど一部の高級スポーツカーに限られてきた。

しかし、VWが2016年に発表した1.5ℓ直4ガソリンエンジンEA221 TSI evoにHoneywellの可変容量ターボVNTが採用され、普及価格帯向けの量産が2017年に始まった。

新型EA221は吸気バルブ早閉じのミラーサイクルを採用し、排気温度をディーゼルエンジンに近い880℃に抑えたことで、VNTの搭載が可能になった。

ディーゼルエンジンの需要が低迷するなか、ターボ市場でシェアを拡大するには、今後ターボ搭載が増えるガソリンエンジン向けに、いかに魅力的な製品を提案できるかが重要で、可変容量システムはその鍵を握っている。

先行するHoneywellも排気温度880℃に対応したにとどまっており、さらに高温の950℃に向けた開発競争がターボメーカー間で繰り広げられている。

また、可変容量と並んで注目を集めているのが、マルチステージターボである。高圧と低圧のターボを2基以上組み合わせて、低回転域から高回転域まで安定した過給を得る仕組みである。

BorgWarnerは2017年秋に高圧と低圧にそれぞれ2基(計4基)のターボを組み合わせたマルチステージターボを発表した。

ターボ4基のR2S(上)とホンダ1.0L向け小型ターボ(下)

BMWの3.0ℓ直6ディーゼルエンジンに搭載される。

ただし、マルチステージターボは一般に高出力モデル向けであり、コールドスタート時の排ガス抑制の点では、触媒を浄化還元に適した温度(ライトオフ温度)にいち早く到達させることができるシングルステージが有利である。

そのため、マルチステージは今後も一部の高出力モデルに限定した製品となるとみられる。

マルチステージとの関連で、ターボに電動コンプレッサーを組み合わせる技術が、欧州自動車メーカーの48Vマイルドハイブリッド車などで増加している。

電動コンプレッサーの製品化では、ValeoやBorgWarnerが先行しているが、他のターボメーカーも開発を進めている。

電動コンプレッサーは、エンジン排気の少ない低回転域でモーターによって過給をアシストし、トルクの立ち上がりを早める。また、一部のターボメーカーは、従来のターボの同軸上にモータージェネレーターを配置し、トルクアシストとエネルギー回生を行う電動アシストターボの開発にも取り組んでいる。

過渡応答性や過給効率を改善するために、ターボの基本構成部品の見直しも進んでいる。

新規参入組のContinentalはラジアル軸流RAAXタービンを開発し、2016年にAudiがライト(適正)サイズエンジンとして発表した2.0ℓ直4ガソリンエンジン(EA888 Gen.3B)に供給。2017年にはFordの第2世代EcoBoostにも供給した。

WLTCやRDEでは、エンジンマップのほぼ全領域で効率を高める必要があるが、RAAXは、インペラの背面の面積を減らし慣性モーメント(イナーシャ)を小さくして、定常状態の効率を改善している。

排気の一部を分流させ流量を制御するウェイストゲートバルブの電動化も進んでいる。ターボの応答性を向上し、過給圧を緻密に制御することが可能になる。

FOURIN世界自動車技術調査月報(FOURIN社 転載許諾済み)>

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