<VWの中国戦略>NEV規制クリアに向けJAC既存車ベースのBEVを本格展開
VWは中国NEV販売シェアトップ獲得とNEV規制クリアに向け、上海VWと一汽VWの既存2合弁事業でBEVやPHEVへの取り組みを強化するとともに、江淮汽車 (JAC)とBEV合弁を設立し、3合弁でNEVの販売拡大を目指している。
上海VWと一汽VWはMQBなどのVWの既存の車両アーキテクチャをベースとするNEV (BEVとPHEV)を2020年までに計10モデル以上生産開始する計画である。2020年からはBEV専用アーキテクチャのMEBを活用したBEVの量産を本格化させる。
JACとの合弁では、新ブランドSOLを立ち上げ、2018年第3四半期に第1弾BEVのE20Xを販売開始する予定である。E20XはJACのコンパクトSUVのBEV、iEV7Sをベースとするモデルで、JAC–VWは2020年までにJACの既存BEVモデルと車両技術やドライブトレインを共有する製品を計3車種投入する考えである。
2017年に3万台弱のBEV生産実績があるJACのBEV技術を活用し、短期間で量販向けの低コストBEVを製品化し、既存2合弁でNEVクレジットが不足した際の事態に備える。
SOLブランドBEVでは、JACのドライブシステムをベースに、VWが独自のスタイリングを施し、JACの既存製品との差別化を図るとみられる。バッテリーを含むBEV技術のR&Dでも協力する考えで、MEBを含むVWのBEV技術がSOLの将来モデルで活用される可能性がある。
一汽VWが2016年に生産開始したAudi A6 L e-tronは初代MLBをベースとする中国専用のPHEVで、バッテリーシステムの開発やテストをAudiの北京のR&Dセンターで行っている。上海VWがA6 L e-tronシステムをベースとするPHEVのVW Phideon GTEを2018年以降量産化するとみられる。
両合弁とも2018年にMQBベースのBEV (e-Golfベース)を生産開始し、2020年にMEB BEVの量産を本格化する予定。MEBベースのリアに搭載するメインのドライブユニットはVWが天津の変速機工場で内製し (上海工場でも内製を行う可能性)、Tier1からの現地調達もある。
AWD向けのフロント搭載のサブユニットは外注となる。バッテリーシステムを内製し、セルは主にCATLから調達する。CATLに大量に発注し、低単価でセルを確保できる見込みである。
VWはNEV販売を2020年までに40万台、2025年までに150万台に増やす目標を2016年11月に発表。NEVラインアップを2025年までに40モデルまで拡充する計画である。
しかし台数計画に見合うボリュームのセルを十分に確保できない懸念が高まっている。中国事業戦略を含めた投資家向けのプレゼンテーション資料で、2017年と2018年3月にNEV現地生産化に向けた段階的な取り組みの図解を掲載しており、2017年時点では「NEV 2025年150万台の目標」を明示。
しかし2018年3月のバージョンでは同様の図解ページで「合弁パートナーとの協力」との文章に差し替えられており、NEV製販計画内容のトーンダウンが否めない。
VWは2017年11月時点で、MEB BEVを2025年にグループで計150万台販売するとの計画を明らかにしており、うち過半数が中国向けとなる見込みだが、十分なバッテリーセルを確保し計画通りにBEVの台数を伸ばせるかどうか疑問視されている。
<VWグループ>電動車計画概要(世界/中国)
VWグループ、電動車計画概要(世界/中国) |
||
BEV/PHEV (NEV)ラインアップ |
世界 | ・2025年までにグループでBEV計 50モデル、PHEV 30モデル販売計画。 ・2030年までに計300以上のグループ各モデルで電動車1バージョン以上設定計画。 ・Audi 2025年BEV/PHEV計20モデル販売、うちBEV 12モデル。 ・Škoda 2025年BEV 5モデル生産計画。 |
中国 | ・2020年までにグループでNEV計15モデル、2025年までに20モデル以上投入予定。2025年現地製NEV 40モデルラインアップ計画。 ・VWは2020年までにNEV 10モデル、2023年までにBEV 10モデルを投入予定。Audiは2023年頃までにBEV 最大5モデル現地生産開始予定。 |
|
BEV/NEV製販規模 |
世界 | ・2025年までにグループでBEV計200万~300万台販売またはBEV販売比率20~25%。 ・MEB販売2020年計15万台 (VWブランド10万台)、2025年150万台 (100万台)。 ・Audi 2025年PHEV/BEV 80万台販売計画。 |
中国 | ・グループNEV販売2020年40万台、2025年150万台目標。 ・VW 2025年BEV 65万台製販計画。2025年グループMEB BEV生産70~80万台見込み。 ・JAC-VWは2018年にBEV生産能力10万台からスタートし最大36万台まで能力増強が可能。 |
|
Eモビリティなど戦略分野での開発/設備投資 |
世界 | ・グループで2018~2022年にEモビリティ、自動運転、モビリティサービスやデジタル化の各戦略分野で計340億ユーロの投資を計画。グループ全モデルの電動パワートレイン化に向けた投資がメイン。 ・VWブランド乗用車事業では2018~2022年にEモビリティ関連で計60億ユーロ以上の投資を計画。 ・Audiは2018~2025年にEモビリティを含む戦略分野向けに計400億ユーロの技術開発/設備投資を計画。 ・Porscheは 2018~2022年Eモビリティ向け投資予算を当初の30億ユーロから60億ユーロに倍増。 |
中国 | ・グループで2018~2022年にEモビリティ、自動運転、デジタル化、モビリティサービス向けで計150億ユーロを投資する計画。 ・2018~2025年にNEVの開発や量産化向けにグループで計100億ユーロを投資する計画。 ・JACとのNEV製販/モビリティサービス事業向け60億ユーロ投資計画。 |
|
電動車車両アーキテクチャ |
世界 | ・BからDセグメントをカバーするVWブランド向け中心のMEBと、AudiとPorscheの高級/スポーツカー向けのPPEのBEV専用2アーキテクチャをベースとするBEV製品のラインアップを2020年代に拡充。2020年にMEBベース第1弾モデルを欧州、中国で販売開始。2021年にPPEベース第1弾BEVを投入予定。 |
中国 | ・上海VW、一汽-VWとも既存のMQB及びMLBアーキテクチャをベースとしたNEVを投入後、2020年までにMEBベースのBEVを生産開始予定。一汽VWはAudiのPPEベースのSUV EVを2023年から生産予定の可能性。 ・JAC-VWは新ブランドSOLの低価格BEV開発でJACの既存の車両アーキテクチャを活用。 |
|
BEV車両生産体制 |
世界 | ・2022年までに世界16工場でBEVを生産。VW/Audiの欧米中工場に加え、Škodaチェコ工場などでも生産開始予定。 |
中国 | ・2021年までに3合弁計6工場でBEVの生産を開始する計画。上海VWの上海、一汽-VWの長春、天津、佛山、JAC-VWの合肥などの各工場で生産を行う。 |
|
VWブランド乗用車BEV事業体制 |
世界 | ・VWブランド乗用車事業で2018年1月にE-Mobility部門を設立しMEB BEV生産を含むEV関連活動を集約。上海VWテクニカル上級副社長、一汽-VW物流トップなどを歴任したThomas UlbrichがVWブランド乗用車生産/物流担当取締役からE-Mobility部門担当取締役へと役職を変更。 |
中国 | ||
BEV技術内製/調達 |
世界 | ・VWがBEVモーター/減速機、バッテリーシステムをドイツで内製。Audiはe-tron向けモーターをハンガリー工場で、バッテリーシステムをベルギー工場で内製。 ・MEB向け機電一体型ユニットは内製と外注。 ・VWのドイツSalzgitter工場に次世代バッテリー開発/調達拠点を設け、2025年までの量産開始を視野に 全個体セルへの取り組みを強化。 ・2025年までにグループで計150GWのバッテリーセルが必要と試算、500億ユーロのセル調達を計画。 2018年3月までに欧州と中国で計200億ユーロのセルを発注済み、北米向けのサプライヤーも近い将来に選定。 ・FAST戦略パートナーのLG Chemに加えSamsung SDI、中国CATLからセルを調達。 |
中国 | ・MEB機電一体型ユニットを内製及びTier1サプライヤーに外注。リアのメインユニットは内製と外注で、フロントのサブユニットは外部からの調達。 ・VWの天津変速機工場でモーター/減速機を内製。パワーエレクトロニクスはTier1から調達。 ・バッテリーシステムを内製。 ・CATLにセルを大口発注。自動車競合他社向けよりも低い単価で調達できる見込み。 ・補助金対象として認められないLG Chem、Samsung SDIからの調達は現時点で困難。 |
|
BEV技術R&D |
世界 | ・MEB開発はVW主導でAudiがサポート。PPEはAudi主導でPorscheとの共同開発。Audiは自動運転やコネクテッド技術の開発に注力したい考えから、メカニカルな電動車ドライブトレイン技術の開発でサプライヤーに依存。 ・MQB BEV向けモーター/減速機を生産するVWのドイツKassel工場で開発も行う。 ・ドイツSalzgitter工場にバッテリーコンペテンスセンターを設け、次世代セルR&Dを強化。 |
中国 | ・上海VW、一汽-VW (長春)、VWグループリサーチ及びAudi (北京)の各R&Dセンサーで次世代バッテリーセルやワイヤレス充電技術のリサーチを推進。JACとの合弁拠点でも電動車関連技術のR&Dを強化する方針。 ・Audiの北京R&Dセンターのバッテリーテストラボではマイナス40度からプラス120度、湿度最大95%の環境下でのシミュレーションが可能。A6 L e-tron向けバッテリーを開発。 |
|
48V MHEV(参考) |
世界 | ・Audiが2018MYにV6 3.0 TFSI/TDIで48V BSG搭載開始。直4以下のエンジン (2.0 TFSI)で12V MHEV技術、V6以上で48V MHEV技術を標準化する方針。 ・VWは2017年にGolf 1.5 TSIで12VマイクロHEV技術搭載開始。次期Golfで48V MHEV技術を採用開始予定。コンパクトクラスで従来の内燃機関、MHEV技術併用に加え、EVバージョン(I.D.)をラインアップ。 |
中国 | ・CAFC対策でMPI (+AT)からTSI (+DCT)へのシフトを進めつつ、TSIと48V MHEV技術の併用も増やしていく可能性。 ・AudiにBSGを供給するContinentalなど複数のTier1がモーターやバッテリーなどの48V MHEV技術を現地で生産。 |
<VW>江淮汽車との合弁でBEV新ブランドSOLを立ち上げ、第1弾モデルを公開
江淮汽車(JAC)との合弁会社による新ブランドSOLの立ち上げと、SOLのBEV第1弾となるSOL E20Xコンセプトを2018年4月北京開催のAuto China (北京モーターショー)2018で公開。
SOL E20XはJACが2017年10月に販売開始したBEVのiEV7Sをベースに開発されたモデル。車格、性能ともiEV7Sとほぼ共通で、フロントグリルはSEAT Ibizaに近いデザイン。
ー 全長4,135×全幅1,750×全高1,560(mm)、ホイールベース(WB)2,490mm。
ー モーター出力85kW (113hp)、三元系Liイオンバッテリーを搭載し、EV航続距離最大300km (NEDCモード)。
ー iEV7SとEVドライブトレインシステムなどの部品を共有し、スタイリングでSEATのデザインを採用し差別化。
コンセプトではキーレスエントリー、プッシュキースタート、スマートチャージング、自動駐車及び360度パーキングカメラ、ボイスコントロール、リモートモニターなどの機能を搭載。
ー HMIでAI、先進コネクテッド機能を採用。
JAC-VWはSOL E20Xを2018年第3四半期に投入予定。E20Xを含むBEV 3モデルの製品化を計画。
ー E20Xに続き、JAC iEVA50ベースのセダンタイプなど、計3モデルのBEVを2020年までに量産開始する可能性。
2018年5月にE20Xの量産モデルを公開。
▽JAC機電一体型BEVドライブユニット (参考)
・モーター、モーターコントローラーや減速機から成るシステム。
・最高出力150kW、システム効率91%。EMC性能向上。重量、コストを従来比でそれぞれ25%、20%削減。
<VW>MEBベースI.D.シリーズBEVコンセプト一覧
<VW>中国NEV現地化に向け段階的に取り組み
<VW>中国事業戦略 (2018年3月現在、参考)
▽VW Together Strategy 2025戦略スローガン
・コアビジネスの変革
・モビリティソリューションビジネスの確立
・イノベーション力の強化
・資金確保
・チャイナパートナーシップの推進
▽コアビジネスの改革
・SUVラインアップ拡充
ー 2018年VW 4モデル (3モデルは新規製品)、Škoda 3モデル、2018~2020年Audi 6モデル投入
ー SUV販売比率2017年18%→2020年40%以上
・新たな成長機会: 輸出や金融サービス
ー VW金融サービス子会社によるローン販売比率2017年15%→2025年目標20%
▽電動化へのシフト、サステイナブルモビリティへの取り組み
ー CAFC/NEV規制対応
ー 3合弁2018年BEV生産開始
ー 既存の車両アーキテクチャを活用したBEV/PHEV生産開始から、専用アーキテクチャを使ったBEV量販へとステップアップ
ー バッテリーセル技術や充電インフラ関連での協業強化
ー BEV製販による利益確保
ー ガソリンエンジン効率化: 排ガス規制 (C6B + RDE)適合、EVO技術 (ライトサイジング)、MPIからTSIへのシフト、MHEV化
▽資金確保
・十分な利益の確保
・中国内キャッシュフローから得た資金による投資、十分な配当の確保
▽モビリティソリューションビジネスの確立とイノベーション力の強化
・Future Center Asia: 2018年1月に北京で開設、内外装デザイナー、ユーザーエクスペリエンスのエキスパート、AI、スマートシティやスタートアップ発掘のスペシャリストが、デジタルユーザーエクスペリエンスの最大限化、UXソフトウェアの開発、SEDRICのような次世代自動運転モビリティコンセプトの開発や次世代モビリティソリューションの提供に向け取り組み
・Mobility Asia: VWユーザー向けエコシステム構築と、モビリティサービス提供による利益確保
ー スマートフォンのエコシステムとモビリティのエコシステムの融合
・「People’s Mobility」をスローガンに最良のサービスの提供、ローカル企業との協業
ー Mobvoi: AI技術の応用で合弁設立、2017年4月発表、Mobvoiの音声認識、自然言語処理や検索などの技術の活用
ー Shouqi Group: 2016年11月提携発表、ライドヘイリングやカーシェアリングサービス、ラスト1マイルソリューションに向けた取り組みで協力
ー Didi Chuxing: 2018年4月第1期提携始動、ライドシェアリング向け車両提供、自動運転/ロボタクシー共同プロジェクトなど
ー Zhejiang Tmall Technology Company: JAC-VW向けデジタルセールス/マーケティングモデル構築で提携、2018年4月発表
・ローカルR&D能力強化: 中国R&Dエンジニア4,000人(2018年3月現在)
<FOURIN世界自動車技術調査月報(FOURIN社 転載許諾済み)>