<アイドリングストップシステム>走行状況を考慮するインテリジェントタイプが登場

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信号待ちなど停車時にエンジンを停止するアイドリングストップシステムは既に国内外の多くのモデルに搭載されているが、エンジンの停止・再始動に伴う振動や、再発進時のもたつきを嫌気してアイドリングストップ機能そのものを無効にするユーザーは多い。

わずかな時間でもエンジンを停止することで燃費を少しでも削減するという目的に反して、実走行時には期待したほどの効果が得られていない可能性も指摘されている。一部の自動車メーカーはアイドリングストップの実効性を高めるために、走行状況に応じてアイドリングストップの作動を切り替える高機能型の搭載を開始した。

アイドリングストップは停車時間が長ければ長いほど有効である。エンジンの停止・再始動に必要な燃料はアイドリング時よりも多い。そのため、停車時間が短すぎると、アイドリングストップによって得られる燃費削減効果をエンジン停止・再始動による燃料が上回ってしまう。BMWの試算ではその境界はおおむね3秒である。

そこでBMWは2017年にフルモデルチェンジした 5 Seriesから短時間の停車が予想される局面でアイドリングを継続するインテリジェントエンジンストップスタート(IESS)の搭載を開始した。IESSは、ナビゲーションとカメラ、レーダー、ウィンカーなどの情報を統合し、エンジンの停止時間が短くなりそうな場面を予測する。

例えば、欧州の道路に多いラウンドアバウトへの進入から退出までは、エンジンは停止しない。また、交差点が接近しドライバーがウィンカー操作で右左折の意思を示した場合も同様である。信号が青に変わった直後の車列に追いついた場合もアイドリングを継続する。前方に停車している車両が徐々に再発進する予測ができるからである。

このほか、住宅エリアや米国の4ウェイストップ、高速道路進入、赤信号での右折などでもエンジンを止めない。

IESSには自動的にエンジンを再始動する機能も備わる。信号待ちで有効な機能で、赤信号の先頭で同乗者と会話したり、ナビ画面を見たりしているドライバーに、青信号への切り替わりを知らせ、運転に再び集中させ、安全運転や交通円滑化を支援する。

アイドリングストップの課題とインテリジェントエンジンストップスタートシステム

▽アイドリングストップ

信号待ちなど自動車の車速が一定以下になったときにエンジンのアイドリングを止めるエンジンストップスタート(以下、アイドリングストップ)システムは1970年代半ばにトヨタが世界で初めて開発し、その後、1980年代にVWやAudi、Fiat、Opelなどの欧州自動車メーカーも類似の技術を開発した。

ー アイドリングストップの開発目的は、燃費の削減である。車を走らせる必要がない場面でエンジンを止めてしまえば燃費が減るという当然の理屈から来ている。

アイドリングストップは世界的な燃費規制強化を受け、2000年代以降、急速に普及。しかし実際の使用面では課題がある。

▽アイドリングストップの課題

エンジンの停止・再始動の際に発生する微妙な振動は消費者にあまり好まれていない。そのため、車が完全に停止する直前(例えば車速3km/h以下)にエンジンを止め、エンジン振動を車全体の振動で覆い隠す手法や、より出力の高いスタータージェネレーターを使用することで再始動をスムーズにするという手法が採用されている。

それでも、不必要な場面でアイドリングストップが発生することに対する消費者の不満は多い。再始動時の一瞬のもたつきを嫌うドライバーも多く、アイドリングストップ機能を手動でオフにする例も散見される。

ー 例えば交差点中央で右折待ちしている際にエンジンが停止すると、右折のタイミングを逸する恐れがあり、好まれていない。同様のことは欧州のラウンドアバウト走行にも当てはまる。

エンジンは始動時に通常以上の燃料を必要とするため、ごく短時間のアイドリングストップは、燃費削減の目標に対して逆効果となる。このことは、エンジンの停止時間をtStopとし、アイドリングストップが燃費削減にプラスの効果をもたらす時間をtEfficientとすると、下図のように表される。

アイドリングストップの継続時間が燃費に与える影響について表す図表。長時間のアイドリングストップは、燃費削減につながり、短時間のアイドリングストップは燃費を悪化させる。BMWのIESSは短時間の停車ではアイドリングを継続する。

tEfficient (S)は、次の公式で求められる。

tEfficient (S)を求めるための公式

ー 例えば再始動にかかる燃料が15×10-8m3で、アイドル時の燃料が5×10-8m3の場合、tEfficientは3秒となる。

排気量や燃料の種類にもよるが、アイドリングストップの収支分岐点は一般に3秒程度である。3秒より長ければアイドリングストップが有効で、それよりも短ければむしろアイドリングストップをせずにそのままエンジンを回し続けたほうが得策である。

▽アイドリングストップとドライバビリティ

短時間のアイドリングストップを止めるとドライバーの快適性が向上する。例えば次のような場面である。

チェンジオブマインド: ドライバーが速度を落としながらも、完全に停止する気がなく、再びアクセルを踏む準備をしている場面。このような場合、ドライバーはエンジンが止まることを望まない。エンジン停止状態とアイドリング状態では、再加速の反応速度が大きく異なる。

アイドリングストップとドライバビリティについて表す図表。ドライバーの走行状況をみると、アイドリングを継続するほうがスムーズな場面も多いことがわかる。

BMWの最新アイドリングストップシステム、インテリジェントエンジンストップスタート(IESS)

▽BMWのアイドリングストップ

BMWのアイドリングストップは、2007年のEfficient Dynamics Strategyが最初である。1 Seriesと3 Seriesのすべての4気筒エンジンに搭載した。その後、他のモデルにも展開。

BMWは2017年にフルモデルチェンジした5 Seriesから、道路状況に合わせて臨機応変に対応する新しいアイドリングストップを搭載している。BMWはこれをインテリジェントエンジンストップスタート(IESS)と呼んでいる。

▽インテリジェントエンジンストップスタート(IESS)のシステム概要

BMWのIESSは、ナビゲーションとカメラ、レーダーの情報を統合し、エンジンの停止時間が短くなりそうな場面を予測する。

ー ナビゲーションにより自車や交差点の位置、道路種別などを把握する。カメラは標識や信号、停止線、前走車を認識する。レーダーも前走車認識に用いられる。

IESSは、車両がどのような状態にあるか、リアルタイム情報をドライバーに提供し、アイドリングストップ機能に対するユーザーの受容性を高める。

ー センタースクリーンに現在のエンジン状況を表示。IESSが作動してアイドリングを継続する場合は、画面内の車の前にforesight- wavesが点灯し、画面下に「エンジン作動中:右折の意思ありと判断したため」というような説明文が表示される。

BMWのIESSのシステム概要について機能を説明するイラスト

▽IESSによる典型的なアイドリング継続局面

BMWのIESSは、車両の停止時間が短いと想定される以下の7つの局面(3つは米国限定)で作動する。これらの場面では、エンジンは停止せずにアイドリングを継続する。

① ラウンドアバウト:ラウンドアバウトへの進入局面で車速が落ちてもエンジンは停止しない。またラウンドアバウトの中にいるときや外に出る局面で、歩行者や他の車に道を譲るために車を短時間停止する可能性がある。この場合もアイドリングを継続。

② 住宅エリア:欧州の住宅エリアでは、右側から来る車を優先するルールがある。右側から来る車や歩行者に道を譲るために車は短時間停止するがエンジンは止めない。

③ 右左折:交差点が近づきウィンカーが作動すると、右左折の意思ありと判断し、エンジンはアイドリングを継続。特に対向車の直進を優先する局面では迅速な再発進を支援する。赤信号時も、車が交差点に既に進入していたらアイドリングを継続。

④ 青信号:自車が信号待ちのために停止する直前に信号が赤から青に変わった場合もアイドリングを継続。自車の前にいる複数の車が一台ずつ発進するには一定の時間を要し速度を落とす必要があるが、いずれにせよ短時間内に再発進が予想されるためである。ただし、青信号になっても先行車がまったく動かないような渋滞局面ではエンジンを停止する。 

IESSによる典型的なアイドリングの継続局面についてまとめたイラスト。①ラウンドアバウト ②住宅エリア ③右左折 ④青信号それぞれの特徴を説明している。

⑤ 4ウェイストップ(米国):交差点に進入するすべての道路に停止標識があり、先に停止したものから優先的に進入できる4ウェイストップでは、アイドリングを継続する。

⑥ 高速道路進入(米国):特に米国西海岸の高速進入路は信号による規制がある。ただし、停車は短時間なことが多く、多くのドライバーがこの局面でアイドリングストップをオフにしている。

⑦ 赤信号での右折(米国):米国の多くの交差点では、直進が赤信号でも右折が可能な場合が多い。このような交差点でウィンカーを使用した場合、赤信号でもエンジンは停止しない。ただし、信号の下にNo Turn on Redの表示がある場合は停止する。

▽IESSによるエンジン自動再始動局面

IESSには、自動的にエンジンを再始動する機能も備わっている。主に以下のような局面である。

① 前走車の発進:市街地で前走車の発進を検知した場合、自動的にエンジンが再始動し、ドライバーのアクセル操作に備える。ただし、前走車のクリープ走行程度ではエンジンは停止したままで、その速度が一定を超えることが条件となる。

② 信号が赤から青に:赤信号の先頭で停止している場合、ドライバーは同乗者との会話やナビ画面操作で信号が青に変わったことに気づきにくい。この場合、システムがエンジンを自動的に再始動することでドライバーの注意を前方に向けさせる。

▽強制的なアイドリング

短時間の停止が予想される場合、システムはエンジンを停止せずにアイドリングを続けるが、システムの予想と異なりドライバーが長時間の停止を望んでいる場合も稀にある。そのような場合にはブレーキペダルを強く踏むことでドライバーは強制的にエンジンを停止することができる。

FOURIN世界自動車技術調査月報(FOURIN社転載許諾済み)

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