EV用空調システム、航続距離延長に向けた新技術開発動向
2017.10.10電動車(BEV/PHEVなど)の空調システム(主に暖房)に使われる高電圧PTC(Positive Temperature Coefficient)ヒーターを代替する技術としてヒートポンプシステムの開発が進展している。 近年BEVなどでは航続距離の延長が最大の課題となっており、動力源であるバッテリーの残量低下に大幅に影響する熱損失の改善が求められる。 中でもBEV向け空調システムは航続距離を左右するコア分野と捉えられており、空調使用によるバッテリー消費増大と航続距離の低下を改善するための新技術の提案が活発である。
<電動車向け空調(暖房)技術の主なトレンド>
BEV/PHEVなどで広く搭載されている高電圧PTCヒーターは、低温時等環境変化に関係なく一定の出力で急速暖房の確保が可能だが、バッテリーの電力消費が大きい。 こうした中で、最も熱損失が大きい暖房使用によるバッテリー残量低下を改善するため、近年ヒートポンプシステムの導入が目立つ。 ヒートポンプは大気の熱を冷媒に取り込み暖房のエネルギー効率を高める方式であり、エンジン(熱源)のないBEVを中心に搭載の動きが広がる。 電動車用ヒートポンプシステムは2010年のトヨタPrius PHV(第3世代Priusベース)で導入され、2014年に日産Leafでも採用。その後、欧米韓系メーカーでも導入に向けた開発が進んでいる。 ただし、ヒートポンプシステムは、大気からの熱回収が容易ではない低温状況での性能低下が課題とされており、これを克服するために電動コンプレッサーの改善や、電動部品からの廃熱を回収する技術などが開発された。 デンソーと豊田自動織機は、2017年2月に日本で発売した新型トヨタPrius PHV(第4世代Priusベース)向けに、ガスインジェクション(気体注入)機能付きコンプレッサーを搭載した新型ヒートポンプシステムを共同開発。これを量産車ではトヨタPrius PHVで世界初搭載した。新型コンプレッサーの導入により、氷点下で暖房を使うときに、エンジンの作動を抑えることができる。 それでも、氷点下では暖房性能が低下するとされ、ガスインジェクション機能付きコンプレッサーを導入して改善した。 気体注入技術を採用することで、大気からの吸熱効率と圧縮時の冷媒の密度を共に高め、エネルギー効率を向上し、高電圧PTCヒーターに比べて最大で60%の電力消費を低減した。
<主要電動車モデル別空調(暖房)技術の採用状況>
また、2016年3月に韓国で投入された現代自IONIQ ElectricではHanon Systemsが開発した廃熱回収を応用したヒートポンプシステムが搭載された。駆動モーター、インバーターなど車載電装品からの廃熱を収集し、これを暖房向けに使用する技術である。同技術により、従来の高電圧PTCヒーターに比べ30~60%の電力消費を低減し、最大2割の航続距離を延長させた。このほか、Boschは2016年に航続距離25%延長のヒートポンプシステムを基にした熱管理システムIntelligent Thermal Management for Electric Vehicleを発表した。今後、グローバル完成車メーカーで投入が増加するBEV向けに供給を図るとしている。
(各社広報資料、各種報道等よりFOURIN社作成) <FOURIN世界自動車技術調査月報(FOURIN社 転載許諾済み)>