EV向け空調システム用ヒートポンプシステムの最新動向
2017.10.10今、自動車業界で話題の電動車(BEV/PHEVなど)。航続距離の延長が業界全体での課題ですが、その改善策として『電動車向け空調システム用ヒートポンプシステム』が注目されています。
今回は、電動車向け空調システム用ヒートポンプシステムに関する主な最近の動向を解説し、完成車メーカー・自動車部品メーカーの最新の取り組みをご紹介します。
トヨタ新型Prius PHVで量産車では世界初の新型電動コンプレッサーを採用したヒートポンプシステムを採用
・2017年2月、トヨタが発売した新型Prius PHV向けにデンソーと豊田自動織機が、ガスインジェクション機能付き電動コンプレッサー式ヒートポンプシステムを共同開発し、投入した。
-同システムに用いられた新型コンプレッサーは、量産車で世界初となるガスインジェクション機能付きで、氷点下10℃の環境でもエンジンを作動させずにヒートポンプによる暖房が可能となる。
寒冷時の暖房能力が26%向上する。既存のPTCヒーターによる暖房に比べ電力消費量を60%低減。このため、BEV/PHEV モデルのEV 走行範囲を拡大、燃費や電費の低減に貢献することができる。
今後、世界的にBEV/PHEV の生産拡大が見込まれることから、新開発の電動コンプレッサーの需要拡大が期待される。
<新型ガスインジェクション機能付きヒートポンプ空調システム(左)と新型コンプレッサー(ESBG27、右上)、運転モード(右下)> (クリック/タップで画像を拡大表示)
Bosch、ヒートポンプ技術をAuto China 2016で発表
・2016年4月、中国で行われたAuto China 2016にて開発中のヒートポンプシステムを含んだIntelligent Thermal Management for Electric Vehicleを発表。
<BoschのBEV向け熱管理システム概念図>
<BoschのIntelligent Thermal Management System(Auto China 2016)>
-BEV/PHEV向けの空調システムで、ヒートポンプ方式を導入しており、航続距離を25%延長する技術。
-これに先立ちBoschは、2015年9月に開催されたFrankfurtモーターショー(IAA) 2015で、ヒートポンプを用いたBEV 用のThermal Management System for Electric Vehicleを世界初公開していた。 :エネルギー効率を改善し、冬場で暖房用の電力を6割節電し、航続距離を最大25%伸ばすことが可能。
-ドイツ政府支援のGaTE プロジェクトでMAHLE Behr などと基礎技術を共同開発。
-新システムはヒートポンプとクーラントポンプ/バルブを組み合わせて熱、冷却剤による冷気を単独で供給。必要な熱、冷気の供給量を計測できる能力が高まり、モーターやパワーエレクトロニクスの廃熱を熱源として利用する。
Hanon Systems、排熱回収を応用したヒートポンプシステムを発表
・2015年3月、Hanon Systems(旧Halla Visteon Climate Control)は、別途のヒーター装置を要せず、駆動モーター、インバーターなどの電装品から発生する放熱を回収してエネルギー効率を高める技術を適用したヒートポンプ技術を世界で初めて開発。
-低温状態(氷点下20℃)での安定的な駆動が可能。
-同システムの採用により、暖房利用時に従来のPTCヒーターに比べ最大60%の電力消費を低減でき、最大2割の航続距離の延長を実現。
-2015年4月に開催されたソウルモーターショーで同製品を世界初公開。 -同システムは2016年3月に投入された現代自IONIQ Electricに搭載された。
<Hanon Systemsの排熱回収方式ヒートポンプシステム>
<Hanon Systemsのヒートポンプシステム構造図>
(クリック/タップで画像を拡大表示)
HEX(熱交換器):車両外部からの熱や車両内部(客室等)の周辺電気機器からの廃熱を吸収 注)HTR Orifice:Hydride Transfer Reaction Orifice(水素移動反応管)、PTC:Positive Temperature Coefficient(正温度係数)、HEX:Heat Exchanger(熱交換器)、A/C Orifice:Air Conditioner Orifice(エアコン連結管)Eberspächer、排熱回収を応用したヒートポンプシステムを発表
・2017年4月、ドイツのEberspächerはHEV/BEV向けの第3世代(新型)高電圧PTCヒーターの量産を開始したと発表。
<EberspächerのBEV向け第3世代高電圧PTCヒーター>
-第3世代PTCヒーターでは、オンボード熱交換器を介して温度制御するソリューションとして設計。PTC素子と冷却材との間の熱伝達率の改善により、冷却材温度が0℃の場合でも、出力密度を30%以上増大させる。
-出力密度の向上とともに、PTC素子数を減らし、ヒーターハウジングを小型化した。また、水皿の素材を従来のアルミから樹脂に変更。これにより、周囲の空気への熱損失を軽減した。樹脂素材の導入で、重量は1.9kgと先代より400g軽量化した。
-VWが米国で販売するe-Golfに搭載される。
BorgWarner、HEV/BEV向けPTCヒーターを開発
・2017年5月、米国のBorgWarnerはHEV/BEVなど電動車向けの高電圧PTCヒーターを開発したと発表。
<BorgWarnerのHEV/BEV向け新開発高電圧PTCヒーター>
-独立空調ソリューションにより急速な暖房性能を確保するとともに、多様な温度状況での航続距離の延長を図った。
-空調機器(HVAC)システムとは高速CAN通信で制御される。
-BorgWarnerはこれまでディーゼルエンジン車向けのPTCヒーター事業を行っており、同事業を電動車向けにも広げた。
(各社広報資料、各種報道等よりFOURIN社作成)
<FOURIN世界自動車技術調査月報(FOURIN社 転載許諾済み)>