タカタ、エアバッグ問題の顛末と教訓
2017.11.07世界シェア3位のエアバッグメーカー、タカタ株式会社が、なぜ短期間で民事再生法適用となったか、不可解が多く、状況を振り返る。 エアバッグは、1995年から急速に新車装着率が伸び、現在、ほぼ100%である。Priusクラスでは6個のエアバッグが標準装備である。エアバッグは自動車部品としては特異な性格を持ち、定期点検(車検を含む)・交換をしない。
【PRIUS α 例】(トヨタ資料より)
***
2004年、北米にてホンダ車で交通事故時にエアバッグ不具合が発生、ホンダは「ガス発生剤以外の原因」と発表したが、2007年から同様の不具合が増え、最初のリコールを行った。日本国内では、2009年、解体時の不具合が発生、ホンダが日本国内で米国ホンダ製車に最初のリコールを行った。
【日米リコール経緯】(国交省資料抜粋)
この時点では「インフレーターのガス発生剤に不適切なものがあり、エアバッグ展開時にインフレーターの異常な内圧で容器が破損し、金属片が飛散する可能性がある」(ホンダ)としている。2014年末には国内10車種のリコール実施、「原因はわからない異常破裂」と発表。リコールが拡大した。
【2015年ホンダ国内リコール (ホンダ資料より抜粋)】 責任回避として「原因不明」が有利にみえるが、先延ばし対応は大量リコールを招いた。
国交省によると、2010年以前に製造されたものはガス発生剤の劣化を防ぐ乾燥剤が入っておらず、異常破裂する危険性が高いとする。2017年7月末時点で、リコール改修済車は約80%である。来春以降、未改修車には車検を受けつけないと発表した。
タカタ製エアバッグのインフレーターのガス発生剤に使う硝酸アンモニウムは一般的な火薬で、ガス発生量が多く、低コストだが、いくつかの温度帯で変質し、該当温度を超えると膨らみ、戻る。
福岡大学他の研究発表(2012年で)は、硝酸カリウム等を添加し、相安定化硝酸アンモニウム(PSAN)が作られた。防湿性・相安定性を改善できるという。タカタも同様のものを採用したと考えるが、防湿剤を含まなかったかもしれない。
2016年2月、日米欧の自動車メーカー10社で構成し、エアバッグ欠陥を調べていた独立委員会は、要因として「PSAN使用で乾燥剤が無い製品が存在」「高温多湿な環境で長期間露出」「湿度管理が不十分な組立工程」の3点をあげた。
タカタは、2017年1月、米国司法省とインフレーターの性能検証試験の報告不備に関して、通信詐欺罪を認め、2,500万ドルの罰金を支払う司法取引に合意した。
また、補償を受けていない被害者や今後発生する被害者の補償に備え、1億2,500万ドルの補償基金を設立。他に完成車メーカーへの弁済に8億5,000万ドルの補償基金の設立に合意した。
米国において、ホンダは2017年9月、米国の集団訴訟で原告側に6億500万ドル支払いで和解と発表。これは、未修理の所有者への呼びかけや「リコールの際にレンタカーを借りた」などのユーザーの経済的損失に使われる。本件は米国史上最多の4,200万台がリコール対象になり、ホンダが1,140万台と最大。リコール完了率(2017年8月時点)は業界全体で43%に留まる。
米国における完成車メーカーに対する、車両オーナーの経済的損害の集団訴訟に関して、トヨタ自動車とマツダ、スバル、BMWが2017年5月に、計5億5,300万ドルで和解。8月に日産自動車も9,700万ドルで和解した。米Fordは決着していない。2008年以降、全世界では累計8,100万台以上がリコール対象となり、国内では、2009年以降累計1,883万台が対象である。 部品メーカーは、完成車メーカーの要求スペックに対し、サンプル・コスト・承認願図を提出し、承認図どおりの部品を、完成車メーカーが定めた場所・時間に納品する役割である。吸湿によるPSANの変化、爆発力への影響は、初期には不明であり、要求性能になければ、部品メーカーだけの責任ではない。
車両に積んだシステムとしての、経年変化・特定環境による性能影響は完成車メーカーにしかできない。 しかし、ホンダは、過去のインフレーター資料を検証し、タカタから虚偽報告があったとし、支援取りやめの方向に進んだ(2015年11月新聞各誌)。長期の共同開発の場でどんな虚偽が起きたのか。負債総額は1兆円を大きく超える。製造業としては戦後最大の大型倒産となる。
経営再建スポンサーは、中国の寧波均勝電子グループの米国Key Safety Systems(KSS)が担当する。タカタは2017年6月、民事再生法を申請し、東京地裁に受理された。
【倒産処理】
乗用車の平均使用年数(軽を除く)は約13年である。エアバッグは点検方法の確立と使用期限を明確にすべきではないか。部品メーカーは未知領域の危険性について責任範囲の取り決めも重要である。この考え方はリチウムイオン電池にも、自動運転にも留意すべきである。車両の使用年数も使用地域も拡大している。完成車メーカーと部品メーカーの共同開発も増える。