【欧米部品メーカー】低燃費要求に対応するエアロダイナミクス技術動向

2018.12.10
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低燃費化および電動化の進展に伴う航続距離延長への要求、排出ガス規制の強化といった近年の市場環境の変化により、走行時空気抵抗の低減、いわゆる空力(エアロダイナミクス)の重要性は、スポーツカーのみならず普及価格帯の量販車でも高まっている。

自動車メーカー各社は数値流体力学(CFD)や大規模風洞実験設備、ナノレベル素材の開発など、様々な技術革新を開発環境に採り入れ製品開発を進めている。

走行状況に合わせてラジエーターグリルのフラップ角を可変とするアクティブグリルシャッター(AGS)は、燃費改善もさることながら、エンジン周辺の早期暖機による排ガス抑制効果もあり、ここ2~3年で急速に採用が拡大。

トヨタや日産、ホンダ、マツダ、スバルが主力モデルの一部に採用しており、欧米自動車メーカーも積極的に採用している。最近ではFCAが北米向けピックアップトラックRam 1500の2019年モデルにAGSを採用した。

外装系システム・部品を扱う欧米サプライヤーの中には、AGS以外にも次世代のアクティブ空力技術を開発し提案しているところがある。

Magna(カナダ)はAGSに加え、フロントディフレクターやアンダーボディーパネル、リフトゲートスポイラーのアクティブ化を提案している。空力の向上に加えて、効率的な熱マネジメントやノイズ低減などがアクティブ化により可能になることをMagnaはアピールしている。

Röchling(ドイツ)は、AGSの開発に合わせてエンジンルームの急激な温度変化を抑制する熱可塑性樹脂製のエンジンカプセルシステム(エンジンアンダーシールド)を開発。また、タイヤ前表面の気流を制御するアクティブスピードリップや、フロント下部の空力を向上するアクティブエアダムなどを開発している。障害物による損傷回避のため、車速約70km/h以下ではこれらのコンポーネントが格納される仕組みになっている。

アクティブ空力技術の概要

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<Magna>アクティブ空力技術に関する開発・採用動向

Magna International(カナダ)の車両外装部門Magna Exteriors(米国Michigan州Troy)は、軽量素材の採用やスタイリングと共に空気抵抗を低減して排出ガス削減や航続距離の延長に貢献する自動可変部品(アクティブボディーコンポーネント)によるアクティブエアロダイナミックシステムの開発に注力している。

▽アクティブグリルシャッター(AGS)

近年では世界規模で自家用車やピックアップトラック(以下PU)への採用が進展。自動閉開によって気流を調整し、空気抵抗や車体リフトの低減を図る。

乗用車、PU、SUV向けに展開。パワートレインの熱マネジメントの機能も担う。エンジンやバッテリーの早期暖機や効率的な冷却を促進し排出ガス削減や航続距離の延長に寄与する。

AGS(不可視型)はフロントグリル裏側に追加統合するコンポーネント。汎用性により導入コストに優れる。エンジンルームへの気流進入を極小化して、走行時の空力性能を最大化する。

可視型AGSはフロントグリル一体型コンポーネントとして、より前方に位置することで不可視型AGSよりもさらに優れた空力性能を発揮する。また仕上げ加工の柔軟性も特長。

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▽アクティブフロントディフレクター(AFD)

フロント下部に装着するアクティブボディーコンポーネント。展開することにより、車体下部や周囲の気流を調整して空気抵抗を低減し、燃費の向上や航続距離の延長などによる排気ガスの削減に貢献する。また車体リフト抑制に対しても効果を発揮する。

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PU、SUV、乗用車向けに展開。FCAが2019 Ram 1500 pickupにAGSと組み合わせて導入した。

今後も主要自動車メーカーのPUやSUVなどの車高の高い車へ展開、他社に先がけて量産化する方針である。 

▽アクティブアンダーボディーパネル(AUP)

ボディ下部に潜り込む気流の軌道を調整し、空気抵抗の低減と車体リフトの抑制を図る。主に車高の低いタイプの車に有用な技術。

乗用車向けに開発。導入が先行したAGSに対し、Magnaはアンダーボディーの空力も空気抵抗削減の重要な要素と捉え、今後もアクティブホイールディフレクター等で空力技術革新の成果を顧客に訴求する。

▽アクティブリフトゲートスポイラー(ALS)

車速に応じてエアロ、スポーツ、クリーンのマルチモードに可変し、それぞれ空気抵抗低減、リフト低減、リアウインドウに溜まるゴミの低減を図る。

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アクティブボディーコンポーネントによる空力改善結果

部品名

改善
Cd値

(1pt=
0.001)
改善燃費
(mpg)
CO2
削減量

(g/km)
質量
エネルギー

等価則(kg)
AGS 7-15 0.18 2.14 35
AFD 16-20 0.297 3.6 129
AUP 9-17 0.21 2.53 41
ALS 3-7 0.07 0.86 14

 

<Röchling>アクティブ空力技術に関する開発・採用動向

樹脂加工メーカーRöchling(ドイツMannheim)の自動車向け部門Röchling Automotiveは、M-Benz A-Class(W177) やBMW 7 Series、Volvo XC40等に空力デバイスを提供し、軽量EV向けボディ開発プロジェクトにも参画するなど近年存在感を強めている。

日本においては、同業でマツダAxela等にAGSを納品しているスターライト工業と2016年に合弁を設立し、事業展開を図っている。

フロント空力関連コンポーネントをシステムとして統合。AGS、熱音響エンジンカプセル(エンジンアンダーシールド)、その他アクティブ空力コンポーネントを、パッケージで提供している。

▽AGS

Röchlingはマウンティングポジションに着目。AGSを車両前方により近づけることにより空力的優位性の最大化を図る。

エンジンルームへの不要な気流の流入を抑制することにより、最大25ポイント*の空気抵抗を低減、CO₂排出を最大3g/km削減する。(*1pt=Cd値0.001)

閉鎖時には特にコールドスタート時のエンジンノイズを低減する。

▽エンジンカプセルシステム(エンジンアンダーシールド)

熱可塑性樹脂素材(LWRT)の多層構造シールドでエンジンを覆い、急激な温度変化を抑制するなどエンジンルーム内外の温度を最適化。エンジンの効率的な運用を促し、排出ガスと燃費の削減を図る。またエンジンルーム内の空気の流れの最適化も図る。

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▽アクティブエアロダイナミックコンポーネント

SUV需要増や電動化により効果的な空力マネジメントの標準化が進行。フロント下コンポーネントもアクティブ化し空力向上を図る。

アクティブスピードリップ(ASL)を新開発。コンパクトなアクチュエーターにより駆動し、タイヤ前表面の気流の軌道を制御する。アクティブエアダムにより、フロント下部の空力を向上させる。

障害物による損傷回避のため、車速約70km以下の走行時には両アクティブコンポーネントが格納される仕組み。

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(参考)アクティブ空力コンポーネントの電気駆動を行うアクチュエーター

アクチュエーターによりアクティブ空力コンポーネントのフラップ自動閉開等の電気的な駆動が可能となる。

Hella

ドイツの大手サプライヤーHellaは自動車車体向けアクチュエーター製造で40年以上のノウハウを有し、各コンポーネント向けに製品を展開する。

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▽Hellaアクチュエーターの機能的優位性(全般)

コンパクトなデザイン、標準的なインターフェース、モジュラー手法による短期開発・製造、グローバル開発生産体制等が特長。

▽AGS用アクチュエーター(GSA)

スマートな機能性と自己診断機能、高い耐侯性など、完全統合型の電子機器として高い性能を有する。また、汎用性に優れる。

▽その他の主要な製品特徴

非接触誘導位置センサー、インテリジェント機能のための電子機器的統合性、高トルク低エネルギー消費、消費電力100μA未満のスリープモード、作動角360度で調整されたソフトストップ、簡素化したオン/オフバージョンも利用可能。

▽技術データ

公称電圧12V、作動温度範囲-40~85℃、公称トルク1.0N・m、最大トルク2N・m(ブースト時)、保護性能IP6K9、製品寿命250,000(回)、全長約85×幅約55×高さ約29(mm)。

FOURIN世界自動車技術調査月報(FOURIN社転載許諾済み)

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