<スズキ>環境負荷の低い小型車開発に注力する技術戦略

2019.09.25
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スズキは、商品や技術開発で選択と集中を進めている。SUVやCセグメント以下の小型車の需要が中長期的に増加することを見据え、その中でも環境負荷が低く、自社が得意とする小型車を引き続き商品戦略の中心に据える。

小型車に適したプラットフォームやパワートレインの開発に資源を優先的に振り向ける。同時に、ビジネスパートナーであるトヨタとの連携も活用して、電動化技術や高効率エンジンなどの新技術を補完し、商品ラインアップを拡充して、競争力強化を図る考えである。

スズキの主な技術戦略概要

全体戦略

アジアを中心とした中長期的な小型車(軽自動車からCセグメント)やクロスオーバーSUVの需要増加を見据えた中で、自社が得意とする小型車の開発に集中し、効率的かつ競争力高い商品開発を推進。

先進国だけでなくアジアなどの新興国の環境規制強化への対応を重視。環境負荷軽減への貢献度が高い小型車の普及を目標に、車両の燃費性能を高め、人口増加等で需要増加が見込める新興国での小型車の拡販を目指す。

アイドリングストップやエネチャージで蓄積したノウハウを活かして、MHEV(マイルドハイブリッド)やHEVを開発、ラインアップを強化。最終的にはEVなどの投入も視野に入れる。先進国だけでなく新興国での投入も考慮する。

プラットフォーム

プラットフォームの新規開発は、軽、Aセグメント、B/Cセグメントの3つに集約。軽量で高剛性な新プラットフォームの展開を推進。グローバル戦略モデルに導入した後、順次新興国戦略モデルにも展開する。

エンジン

エンジンの新規開発も小型車向けに集中投資。
軽自動車用の排気量660ccからB/Cセグメント向けの1,400ccまでに絞って開発・投入する。

ADAS

単眼カメラとレーザレーダを組み合わせたデュアルセンサーブレーキサポートシステムの普及と機能・性能向上に向けた開発を推進。

主力モデルのマイナーチェンジやフルモデルチェンジを機に同システムへの切り替えを進めている。

提携

ビジネスパートナーであるトヨタとの協業を重視。
OEM受給による商品ラインアップの補完、共同開発による技術開発体制の強化・技術の補完、開発費用削減によるコスト低減を図る。

電動化を含めたパワートレイン開発やADAS関連まで幅広くトヨタとの協業を活用する。 

プラットフォーム技術戦略

スズキは、軽自動車やグローバル戦略車への新プラットフォーム(PF)導入を機に、PF数を従来の4つから3つ(軽・Aセグメント・B/Cセグメント)に集約し、開発の効率化とスケールメリットを追求する。

新しいPFのHEARTECTは、軽量・高剛性化をテーマにフレームレイアウトをスムーズ化(段差や角を削減)する。これにより剛性を高め、応力分散を利用して補強材を削減し、高張力鋼板の使用範囲を拡大する。

また、スズキは、各セグメントでPFのフレームコンセプトを共通化して、相似的設計を行っている。その上で派生モデルへの展開を想定し、モジュール構造を導入している。

フロントサイドメンバー周辺を共通エリアとし、フロア部分を車種やホイールベースによって可変とする設計方針により、開発プロセスを効率化している。

プラットフォーム展開

スズキは2014年投入の新型Alto以降、先進国の主力モデルを中心に新プラットフォームHEARTECTへの切り替えを推進。

スズキはHEARTECTの展開を機に、主力車へのプラットフォーム展開を4つから3つに集約する。HEARTECTでは、軽、Aセグメント、B/Cセグメントを想定した設計を導入。

新興国専用車など、一部については先代のプラットフォームを継続して使用するが、近年では新興国戦略モデルにおいてもHEARTECTへの切り替えが進行。2018年4月にはインドネシアで生産するMPVモデルErtigaに導入。2019年1月には、Maruti SuzukiのWagon Rでも導入した。

またニッチモデルであるJimnyについては引き続きラダーフレームを採用する。

プラットフォームレイアウト

HEARTECTのフレームレイアウトはスムーズラインをコンセプトに、段差や角を削減。スムーズレイアウトにより応力分散を図り、補強材の使用量削減。また、高張力鋼板の使用範囲の拡大も可能となり、板厚の低減を通じて軽量化。グローバル戦略車であるSwiftではプラットフォーム切り替えにより30kg軽量化した。

スムーズラインによりフレームレイアウトに連続性を持たすことで、少ない部材で剛性を確保。フロントサスペンションサブフレームもフレームと一体となり剛性を確保する。このほか、部品の取り付け位置の変更なども車両剛性の向上に寄与している。旧プラットフォームに対して、ねじり剛性と曲げ剛性をそれぞれ30%高めた。

スズキは各セグメントでプラットフォームのフレームレイアウトコンセプトを共通化。相似的な設計で3機種のプラットフォームを展開。

新プラットフォームHEARTECTのフレームレイアウトを説明する図
モジュール化

派生車など開発効率化を目指し、HEARTECTではモジュール設計を導入。
モジュール化を通じて、部品を車種やセグメントを超えて共通化し、スケールメリットによるコストダウンを狙っている。

アッパーストラット周辺はモデルごとに個別に設定。それ以外の部分で共通化やグルーピングによる可変設計方式を導入して車両開発を効率化。

フロントサイドメンバーからフロントバルクヘッド、サイドシルを全車種で共通化。

ラゲッジフロアを車種ごとにグループ化した上で、キャビンフロアをホイールベースに合わせてショートとロングで使い分ける。

新ぷらっとフォームHEARTECTのモジュール設計

パワートレイン技術戦略

スズキはガソリンエンジンの開発では、660~1,400ccの小型車向けエンジンに集中し、高効率自然吸気エンジンとダウンサイズターボエンジンを投入している。

自然吸気エンジンの主力は、1気筒あたり2本のインジェクターを搭載したDual Jetエンジン。噴射燃料を微粒化し、噴射位置を燃焼室に近づけて筒内混合を促進し、対ノッキング性能を高めた。また、圧縮比を従来の11:1から12:1に変更し、燃費と動力性能を両立した。

ダウンサイズターボエンジンは、クラスに応じて1.0ℓと1.4ℓを展開している。ターボ化によるポンピングロスの低減と1クラス上の動力性能を実現。高効率運転の領域の拡大や構成部品の軽量化を合わせて、燃費と動力性能を両立したエンジンを主力モデルに搭載している。

全体戦略

プラットフォームに続き、パワートレインについても小型車向けに開発資源を集中し、効率化と商品競争力の強化を目指している。

<内燃機関>

内燃機関ラインアップ

スズキはSUVや小型車の将来的な需要増加を見据えて、新規エンジン開発については、自社が得意とするCセグメント以下に集中する。

ガソリンエンジンでは軽自動車向けの660cc~1,400ccに集中。ディーゼルエンジンについては、インドMaruti Suzukiで展開するSuper Carry向けに2気筒800ccを採用する。

Jimnyなどのニッチモデルや一部の新興国現地専用車等については、引き続き従来型エンジンを活用する。

自然吸気ガソリンエンジン

スズキはコンパクトカーなどのモデルに搭載する自然吸気エンジンとして、1気筒あたり2本のインジェクターを搭載したDual Jetエンジンを展開。

吸気ポートに小型のインジェクター2本配置(吸気バルブ毎に1本配置)することで、噴射燃料を微粒化(平均粒径をφ65μmからφ45μmに縮小)して筒内での燃料と空気の混合を促進。

燃焼室の近くで燃料を噴射できるため、噴射燃料の微細化に加えて、シリンダー内での充填効率を高めて冷却を促進。さらにピストン冷却用のオイルジェットや水冷EGR等と組み合わせて、高圧縮比化によるノッキングを防止する。

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Dual Jetエンジンの圧縮比は従来の11:1から12:1に上昇。燃費性能と動力性能を両立した。

2019年1月現在、スズキは同エンジンをベースにHEVやMHEVシステムと組み合わせたパワートレインを展開している。

直噴ターボエンジン

1.4LBooster JetのSwift Sport用と1.4LのBoosterJetに搭載される三菱重工製ターボチャージャーの写真
スズキは主力コンパクトカーのダウンサイズエンジンとして、直噴ターボ仕様のBooster Jetエンジンを設定1.0ℓと1.4ℓ仕様を展開している。

1.0ℓ仕様は従来の1.5ℓ自然吸気エンジンからのダウンサイズを想定。X-BeeやSwift、BalenoなどのA/Bセグメントのモデルに搭載されている。1.4ℓ仕様ではSUVモデルのESCUDOやSwift Sportなどに搭載され、B/Cセグメント内での高出力車向けのエンジンとして想定。

ターボチャーチジャーによる動力性能の向上に加えて、ポンピングロスを低減。

高圧燃料噴射ポンプと、横一列配置の6孔式マルチホールインジェクターを採用して微粒化した燃料を筒内に直接噴射。高タンブル吸気ポートとの組み合わせにより、筒内での混合促進と冷却性を確保してノッキングを低減。このため、圧縮比は1.0ℓ仕様で10.0:1、1.4ℓ仕様では9.9:1とした。

低中負荷での運転領域を拡大して、燃費効率の良い運転領域を広げる。

吸気側VVTの搭載と合わせて、ウェイストゲートバルブにノーマルオープン制御を導入して背圧を低減。クローズ制御に対して約2割ポンピングロスを低減する。1.0ℓ仕様については4気筒から3気筒に変更することでエンジン自体を軽量化。

1.4ℓ仕様については、ボアとストロークなどの基本骨格を小型化。さらにピストン、コンロッド、クランクシャフトの設計を材料から見直して軽量化を図った。Swift Sport向けの1.4ℓ仕様では、高出力・高トルク性能を重視して、ウェイストゲートバルブの制御を変更。

ノーマルクローズとすることで常時過給状態(過給が過剰となった場合にウェイストゲートを開く)にしてターボラグを低減した。また高出力化によりインタークーラーもESCUDO仕様よりも大型化した。

660ccの軽自動車向けエンジンは、モデルの全面改良などに合わせてR06A型に更新してきた。2019年2月現在で、軽自動車全車種のエンジンはR06A型に統一されている。

<変速機>

AGS

スズキはグローバルで幅広いセグメントに5速MTベースの自動変速機Auto Gear Shift(AGS)を展開。

クラッチとシフト操作を電動油圧アクチュエーターにより自動で行う。動力伝達効率が高いMTをベースとすることでドライバーの操作負担軽減と燃費性能を両立する。

MTベースで構造が比較的簡素であるため、日本だけでなくインドでも生産している。

<電動化>

全体戦略

各国の排ガス規制強化に対応するため、電動化開発も重視。エネチャージなどの導入によるエンジン車の低燃費化を土台とし、MHEV(マイルドハイブリッド)やHEVを経て将来的にはEVやPHEV、FCEVを導入。

MHEV

スズキは、軽自動車からCセグメントまでの幅広いモデルでMHEVを設定。

スタータージェネレーターによる減速エネルギ回生と駆動アシストを行うS-エネチャージを発展させたISGタイプのMHEVシステム(P0に相当)である。

12Vのリチウムイオンバッテリーにより発進加速から100km/h(最大30秒)の領域でISGによるエンジン駆動アシストを行う。

HEV

スズキはA/Bセグメントの小型車向けにAGSと駆動モーターを組み合わせたパラレル式HEVシステムを設定。

最高出力10kW、最大トルク30N・mの駆動モーター(MGU)を用いてAGSの変速で発生するトルク抜け時に駆動をアシスト。またECOモードでは発進から60km/hまでEVモードでの走行が可能。100km/hまで駆動アシストを行う。これによりスムーズな加速と燃費性能を向上。

駆動モーターへの電力供給は容量4.4Ah、100Vのリチウムイオンバッテリーを活用する。

2019年現在で日本のSolioやSwiftに設定されている。

HEVシステムのシステム概略図(イメージ図)

最近のADAS・自動運転開発動向

スズキは内燃機関搭載車の燃費性能向上をパワートレイン開発の軸に据えた上で、マイルドハイブリッド(MHEV)やHEVの展開を進めている。

アイドリングストップや減速エネルギ回生を行うエネチャージで蓄積したノウハウを活かして、2015年以降、MHEVを展開している。MHEVではISGによる回生エネルギを鉛蓄電池と小型リチウムイオン電池に蓄電。

リチウムイオン電池の電力を活用して発進時や加速時にベルト駆動を活用したISGによるエンジン駆動をサポートする。構造がシンプルでコンパクトなシステムであり、軽自動車から小型車まで幅広く設定している。

さらにスズキは2015年以降、SolioやSwiftに自社開発の5速AMT(AGS)に駆動モーターを組み合わせたパラレル式HEVを設定し市場投入した。リチウムイオン電池によるモーター駆動を活用し、AGSの変速で発生するトルク抜け時に駆動をアシストする。

また発進時から60km/hまでのEVモード走行や100km/hまでの範囲でモーターによる加速アシスト機能を搭載し、燃費性能の向上を図っている。

ADAS

スズキは先進国の主力モデルを中心に単眼カメラとレーザレーダを活用した運転支援システムであるデュアルセンサーブレーキサポートを展開。

追従式クルーズコントロールや緊急自動ブレーキ、車線逸脱防止を支援。最新仕様では、車線逸脱防止支援システムに操舵支援機能が追加された。

スズキは主力モデルの全面改良や一部改良を機に同システムへの切り替えを推進。今後も引き続き、運転支援システムの機能・性能の向上を目指して開発に取り組む方針である。

自動運転

スズキの自動運転についての取り組みは2016年にソフトバンク傘下のSBドライブ、遠州鉄道、浜松市との連携協定締結以降、大きな動きはみられていない。

トヨタとの提携において、検討項目として安全、環境、情報などの分野が挙げられており、将来的にトヨタとの提携を活用する可能性がある(トヨタとの提携については下見出し参照)。

トヨタとの技術開発関連提携動向

2017年に技術開発や商品の相互補完等に関する業務提携検討に関する覚書を締結(検討開始は2016年)。電動車分野をはじめ、安全、環境、情報の分野で提携する。

EV開発

2017年11月、インド市場へのEV投入に向けてトヨタと連携することについて検討開始。

2018年初旬まで、トヨタ、マツダ、デンソー3社のEV開発コンソーシアムEV C.A. Spiritにスズキも参加。トヨタをはじめとした他社と連携しながら、EVの技術規格を開発。

2019年末までに基礎開発を完了して、2020年をめどに、商品化に向けた開発を開始する計画。

パワートレイン開発提携

2018年5月、トヨタと小型超高効率パワートレインに関する共同開発について協議を開始した。スズキのパワートレイン開発をトヨタとデンソーが技術支援を行う。

エンジンやHEVシステムの開発を進める方針で、トヨタのHEVノウハウ等を活用する。

2018年5月の提携協議では、パワートレインの開発連携に加えて、インド等での生産販売事業で連携する。

商品の相互補完

2018年3月、インドでのトヨタとの車両相互供給に合意。

インドにおける最近の主な技術開発動向

<内燃機関>

ディーゼルエンジン

スズキはインドのMaruti Suzukiの小型商用車Super Carry向けに2気筒800ccのディーゼルエンジンを設定。

Bharat Stage4(Euro4相当)規制に対応しているが、2020年にはインドでBharat Stage6(Euro6相当)が導入されるため、今後エンジンの切り替えが進む見通しである。

CNGエンジン

Maruti Suzukiはインド国内でCNGエンジン搭載車を展開。
インドではCNG燃料が安価であり、CNG車のニーズが高い。

Maruti Suzukiは2010年にCNG車を投入し、2018年12月には累計販売50万台を達成。Maruti SuzukiはCNG車の開発を継続する方針。

<電動車>

EV

2017年11月、インド市場でのEV投入を目指し、トヨタと連携することについて検討を開始。スズキがインドで生産を担当し、トヨタに供給する計画。トヨタはスズキに対して技術支援を行う。

2018年10月、インドでEVの実証実験を開始した。

日本の軽規格のWagon Rをベースとした試験車両を50台導入。生産はMaruti Suzukiが担当する。

実証実験のデータをEV開発に活用。2020年頃に市場投入する方針。

スズキとMaruti Suzukiは、インド政府による2030年のEV普及目標(市場の3割をEVとする)を見据えてEV事業を強化する。

インドでのEV試験車両
MHEVの改良

2018年8月にMaruti SuzukiのCセグメントセダンCiazに改良型のMHEV(現地名SHVS)を設定。

インドのMHEVの基本システムは、日本のMHEVと同じであるが、リチウムイオン電池は搭載されずに鉛蓄電池で対応。改良型モデルでは、日本と同様にリチウムイオン電池を搭載して鉛蓄電池を小型化した。

リチウムイオン電池は日本から輸入するが、2020年にはスズキ/東芝/デンソーの3社合弁会社で現地生産し、コストを低減する。

<その他>

トヨタとの商品の相互補完

2018年3月、トヨタとスズキでHEVやMHEVのなどを相互供給することに合意。スズキ側は、BalenoのMHEVやVitara Brezza等をトヨタへ供給し、トヨタからCorollaのHEVモデルを受給する。

FOURIN世界自動車技術調査月報
(FOURIN社転載許諾済み)

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