FCEV最新動向、トヨタやBMW、三菱ふそうが新コンセプトカーを発表、中国政府は燃料電池産業育成方針

2020.01.22
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本稿では、各国の水素モビリティ政策動向および主要OEMによるFCEVの計画動向について概観する。

米国やドイツでは水素関連プロジェクトに対し、政府による巨額の資金援助がなされている。日本では、FCEVとHEVの価格差を2025年までに70万円とすることなどを目標に、水素・燃料電池技術開発戦略が策定(2019年9月)された。

中国の水素・燃料電池産業は、産業政策による影響力が大きく、中央政府および地方政府がそれぞれに補助金制度を設けている。技術力の成長スピードの速さに加え、コスト競争力も高く、市場可能性が期待される。一方で、政策の足並みが揃っていないことや、現時点では大量生産が難しいこと、品質基準を満たさない可能性があることなどの課題もある。

モーターショーではOEMによるFCEVのコンセプトカーの発表が相次いでいる。Frankfurtモーターショー(IAA)ではBMWが2022年に発表予定のミドルSUVのFCEVコンセプトを発表。BMWと燃料電池技術開発で提携するトヨタは、東京モータショーにおいて新型Miraiのコンセプトを初公開した。

Daimlerのトラック/バス部門は、2020年代末までに水素ベース車両の量産化を目指している。同グループの三菱ふそうは東京モーターショー2019において、小型FCトラックコンセプトVision F-CELLを世界初公開した。

現代自は、スイスを皮切りに欧州における水素モビリティ・エコシステムの構築を先導する計画である。またFCトラックの商用展開計画における新たなビジネスモデルとして、メンテナンス費用等を含めた距離当たり定額制の収益モデルを提案した。

世界、FCEV向け水素インフラに関する動向

【世界、FCEV向け水素インフラに関する動向】USA/California:100以下のHRSが稼働。ネットワーク計画(CARB)、50以下のHRSが稼働、2025年までに最大570 HRS。UK:100以下のHRSが稼働。UK H2 Mobility、15のHRSが稼働、2025年までに最大300 HRS。Europe:最初のプロジェクトが始動。いくつかのEU加盟国がHRSロードマップを策定、120のHRSが稼働、2025年までに750 HRS以上。Germany:100以上のHRSが稼働。H2 Mobility JV設立、74のHRSが稼働、2019年までに100 HRS。Scandinavia:数カ所のHRSが稼働。デンマーク:10 HRS、ノルウェー:9 HRS、スウェーデン:4 HRS、フィンランド:2 HRS。South Korea:。数カ所のHRSが稼働。20以下のHRSが稼働、2022年までに310 HRS。Japan:100以下のHRSが稼働。2020年までに100 HRS、H2 Mobility(JHyM)設立。China:最初のプロジェクトが始動。20以上のHRSが稼働、2020年までに100 HRS。

世界、水素・燃料電池技術に関する最近の政策動向

<米国>

2019年8月、米国エネルギー省(DOE)は2019年度にH2@Scaleコンセプト*1を推進する29のプロジェクトに計約4,000万ドルの資金を提供すると発表。(*1 安価で信頼性の高い水素の大規模生成・輸送・貯蔵およびさまざまなセクターでの利用を目指すもの。)

<ドイツ>

2019年10月、連邦交通・デジタルインフラ省(BMVI)はドイツ国内の6件の水素モビリティプロジェクトに計2,350万ユーロの資金を提供すると発表。連邦政府が実施する水素・燃料電池技術革新プログラムNIPの一環。

<日本>

2019年3月、「水素基本戦略」(2017年12月策定)等で掲げた目標を実現するために必要な要素技術スペックやコスト内訳を明確化した「水素・燃料電池戦略ロードマップ」の改訂版が発表された。

2019年9月、ロードマップで掲げた目標の達成に向けて具体的な技術開発事項を定める「水素・燃料電池技術開発戦略」が策定された。

中国における水素・燃料電池政策・産業動向

▽産業政策/補助

「中国製造2025」では、太陽光や風力といったエネルギーから水素・燃料電池への転換方針が示された。

CATARCおよびSAEは、水素・燃料電池産業がどのように進化し、どのような経済的価値を生み出すことができるかについて、指針となるロードマップを発表。2030年までにFCEV 100万台、HRS 1,000ヵ所の目標を掲げる。

その他の目標として、2030年までに1兆元の産業創出、サプライチェーン規模や水素の可用性拡大を目指す。

中央政府による補助制度は次の通り。

  • 自動車メーカー:乗用車20万元、軽量トラック30万元、重量トラック50万元。
  • HRS設置都市:1ステーションあたり400万元。


地方政府による補助制度の状況は次の通り。

  • 上海、北京、武漢、広東省など10以上の省や都市が助成金および目標を設定している。
  • 地方のFCEV補助は、中央政府補助の30~100%に相当。
  • FCEV保有台数目標は地域により異なる。地域ごとの目標台数の合計は、国家全体の目標を上回る。

▽市場可能性

  • 中国では産業政策の影響力が大きい。
  • 技術開発および製造業の成長スピードが速い。
  • 共同開発や提携の機会に恵まれている。
  • グローバルな市場機会を狙うことができる。
  • コスト競争力がある。


▽課題

  • 政策が統一されていない。
  • 目標台数に比べ、水素インフラの整備が遅れている。
  • 現時点では大量生産は困難である。また、製品が基準を満たさない可能性がある。
  • 性能が十分でなければ産業の弱体化につながり、たとえコストを抑えられてもサプライチェーンにダメージを与える。

主要OEM、FCEV新モデルおよび販売計画

<トヨタ>

トヨタはFCEVの長期販売計画として、2020年以降、グローバルでバスなども含め年間3万台以上販売するとしている。

▽新型Mirai Concept

トヨタは東京モーターショー2019で、新型Miraiの開発最終段階モデルとしてMirai Conceptを初公開した。2020年末に発売予定。

  • 航続距離は現行モデル比3割増。FCスタックの効率を向上させ、水素タンクの容量を増やした。 

<BMW>

BMWは燃料電池技術開発に関して、2013年からトヨタと協働している。2016年に正式にパートナーシップを締結。

  • 2015年より、共同開発したFCユニットを搭載したプロトタイプを生産し実験を行っている。

▽2022年に発表予定のFCEVコンセプト

BMWはFrankfurtモーターショー(IAA)2019で、次世代 FCEV モデルの提案としてBMW i Hydrogen NEXTを初公開した。

  • BMWは2022年に、ミドルSUVの X5をベースにしたFCEVを発表する計画。2022 年はフリートとして投入し、2025年に本格的な販売を目指す考え。

 BMWより2022に発表予定のFCEVコンセプトカーの写真
<Daimler/三菱ふそう>

Daimlerのトラック/バス部門は、2020年代末までに水素ベース車両の量産化実現を目指す。

▽小型FCトラックコンセプト

三菱ふそうは東京モーターショー2019において、小型FCトラックコンセプトVision F-CELLを世界初公開した。

  • 最大出力135 kW、航続距離300km。
  • 2017年に発売した量産型EV小型トラックeCANTERをベースにしている。車両重量は7.5t。 

Daimler/三菱ふそうが2017年に発表した小型FCトラックコンセプトカーの写真
▽世界初プラグインFCEV

Daimlerは2018年11月に世界初のプラグインFCEVであるMercedes-Benz GLC F-CELLを発売。東京モーターショー2019では日本市場での発売が発表された。

  • 欧州以外で発売するのは日本のみ、納車開始は2020年央としている。4年間のリース契約で提供され、価格は1,050万円。
  • 燃料電池に加え、蓄電容量13.5kWhのリチウムイオン電池を車体後部に搭載。EVモード航続距離(NEDC)は51km。
  • 水素タンクは700気圧タンクで、容量は4.4kg。水素のみでの航続距離(WLTC)は336km。
  • モーター最高出力は155kW、最大トルクは365N・m。最高速度は160km/h。
  • 燃料電池パワートレインにモジュラーアプローチを適用することにより、さまざまな燃料電池システムアプリケーション(乗用車、バス、トラック、エネルギー供給ステーション等)を可能にする。

▽FCEV走行実績

Daimlerは、これまでに発売したFCEVの走行実績および得られた知見について次のように報告している。

  • 2010年からリース販売を開始したMercedes-Benz B-Class F-CELLは、欧州および米国で累計1,000万km以上、1台あたり30万km以上走行。36,000回の水素充填のデータによると、1回の充填にかかる時間は平均2.8分。

  • FCバスのMercedes-Benz Citaro FuelCELL Hybridは、欧州で累計500万km以上走行。バス事業者の発表によれば、従来のバスに比べてCO₂排出量を、走行100万kmあたり1,200t削減。

<現代自>

▽パートナーシップ

現代自は2019年4月、水素モビリティ企業H2 Energy(スイス)とともに合弁会社Hyundai Hydrogen Mobility(HHM)を設立した。またHHMは同9月、H2 Energy、Alpiq(スイス)、Linde(英国)の合弁会社Hydrospiderと提携。スイスを皮切りに、欧州における水素モビリティ・エコシステムの構築を先導する計画である。

  • HHM、Hydrospiderと水素ステーション運営事業者(Avia、Agrola、Coop/CMA、Migrol、Shell、Socar、Tamoil)が連携し、エコシステムを形成する。

  • 現代自が2025年までにスイスへ出荷を予定する1,600台のFCトラックの大部分について、HMMはスイスの主要なエネルギー企業、輸送・物流関連企業などで構成されているH2 Mobility Switzerland Associationの会員企業とリース契約を締結する。

▽製販計画

2019年末にスイスに最初のFCトラック(4×2のFCリジッドトラック(34t))を投入する。2020年末までに台数を50台とする。2021年には本格展開を開始する。

6×2のFCリジッドトラック(40t)を2021年スイスに導入。
4×2/6×4のFCトラクタートラック(44t)を発売予定。

2020年にスイス以外の2ヵ国に水素トラックを投入する。250台規模で導入できる地域に焦点を当てる。

▽ビジネスモデル

現代自は新たな従量制の収益モデルを提案している。

  • フリート車両台数や車種、年間平均走行距離、サポートにかかるコストなどを考慮に入れ、距離当たり定額制(メンテナンスや燃料費等を含む)とするもの。

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(FOURIN社転載許諾済)

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