内閣官房IT総合戦略室の委員に聞く、日本における自動運転およびITS開発ついて
2020.03.02日本における自動運転やITS(=Intelligent Transport Systems)の現状とロードマップについて、内閣官房IT総合戦略室で委員として官民ITS構想の策定などに携わる東京大学の須田義大教授にFOURINは話を聞いた。
日本では、ここ1年で自動運転関連の法整備が大きく前進した。2019年5月に「道路運送車両法の一部を改正する法律」と「道路交通法の一部を改正する法律」が成立した。前者は、自動運転車の設計・製造過程から使用過程にわたる安全性を一体的に確保するもの、後者は、自動運転技術の実用化に対応した運転者の義務に関する規定である。これらの法律が成立したことで、Level 3までの自動運転技術の導入を妨げる政策的な障害はほとんどなくなった。Level 4の具体的な制度設計はこれから行うことになる。
オーナーカーによる一般道でのLevel 3は当面難しいが、一方で、限定地域でのLevel 4相当の無人自動運転サービスは、各地で実証実験が行われている。公道実証実験のガイドラインを事業展開時に適用することが決まり、持続可能なビジネスモデルをいかに確立するかを検討する段階に入っている。2019年4月には、経済産業省と国土交通省によるMaaS社会実装支援プログラム「スマートモビリティチャレンジ」が始まった。北海道上士幌町のふるさと納税活用など、さまざまな実証実験が行われている。
自動運転/ADASの普及に伴う車検の見直しも2019年3月に決定した。2024年から排ガス等発散防止装置と運転支援技術、自動運転技術について、車載式故障診断装置(OBD)による車検が導入される。
日本における自動運転およびITS開発の現状とロードマップ
2019年10月2日、東京大学生産技術研究所(東京都目黒区)で行った須田義大氏(東京大学教授)へのインタビューを基にFOURIN構成
日本における自動運転戦略の策定状況
内閣官房IT総合戦略室は、官民ITS構想ロードマップを毎年更新している。私はIT総合戦略室の委員を務め、ロードマップの策定に携わってきた。IT総合戦略室の方針を受けて実践するのが内閣府のSIPであり、これと連携して国土交通省、経済産業省、総務省、警察庁などの各省庁がそのロードマップに沿ったプロジェクトを進めている。
IT総合戦略室のロードマップに従って、各省庁での取り組みとして行われた最近の自動運転関連の動きを振り返る。まずは車両の安全性を確保するために、安全性に関する要件を定めた「自動運転車の安全技術ガイドライン」を2018年9月に策定し公表した。さらに、自動運転車の設計・製造過程から使用過程にわたる安全性を一体的に確保するため、「道路運送車両法の一部を改正する法律案」と、自動運転技術の実用化に対応した運転者の義務に関する規定の整備を行う「道路交通法の一部を改正する法律案」が2019年5月に国会に提出され、いずれも可決成立した。
2019年6月にIT総合戦略室が発表したロードマップでは、 ①自動運転の目標年次である2020年の実用化に向けた詳細な取り組みの明確化、②自動運転の社会実装に向けた持続可能なビジネスモデルの確立に向けた検討、③急速に発展するMaaS(=Mobility as a Service)に自動運転を取り込んだ将来像の提示を行った(下図参照)。
具体的には、制度整備大綱に基づく法整備の取り組みを評価しつつ、無人自動運転移動サービスの事業化の際には実証実験の枠組みを維持することなどを明確にした。
今回改正された道路交通法では、Level 2まではドライバーの責任、Level 3以降はシステムの責任を認めた。ただし、それは運転の操縦に関してシステムの責任を認めたもので、安全監視の責任は引き続きドライバーに残っている。また、自動運転システム利用中の事故により生じた損害については、自賠責保険を適用する。民事においては所有者責任ということになる。
自動運転開発の現状
日本における自動運転関連制度の整備は少なくともLevel 3までは前進した。Level 4の制度は未整備であるが、今後の技術の進化を妨げる政策的な障害はほとんどなくなった。今は政策よりもむしろ、技術的な課題のほうが再び焦点になっている。
特に、人間とシステムのやり取り(HMI=Human Machine Interface)の問題が生じるオーナーカーのLevel 3については、一般道では当分実現しそうになく、高速道路ですらいくつかの課題を抱えている。
そのため、オーナーカーでは当面Level 2を充実させることになる。これによって交通事故の削減や渋滞の緩和、日本の産業競争力の向上を目指す。それに向けて、自動車メーカー各社や関連サプライヤーなどが、公道実証試験を行っている。
Level 2の充実と並行して、Level 4相当の無人自動運転移動サービスに向けた実証実験も、主として過疎地など他の交通参加者との接点の少ないエリアで行われている。
これらの自動運転開発に合わせて、政策的には二つのガイドラインがある。「自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン」と「ドライバー席に人のいない無人移動サービスのガイドライン」である。
前者は実証実験を行う事業者側に向けられたガイドラインである。このガイドラインを遵守していれば、警察の許可は不要ということを意味している。
後者は、無人自動運転移動サービスの公道実証実験を許可する際の基準である。実証実験を行うサービス業者などは、事前に警察に道路使用許可を申請して、許可を受けなければならないが、その際に各都道府県警の担当者が従うべき基準を示したものである。
過疎地のMaaSにふるさと納税を活用
後者のサービスカー向けガイドラインは公道実証実験に対するものだが、先にも述べたとおり、今後の事業展開でも同じガイドラインをそのまま適用することになっている。すなわち、無人運転シャトルサービスを行うには、道路使用許可を得る必要がある。当然、運送事業者用の緑ナンバー(一般貨物自動車運送事業許可)も必要である。
既にいくつかの業者が自動運転のサービスカーを所有して実証実験を行っている。例えばトラストバンクである。この会社は、ふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」を企画・運営している。
ふるさと納税の活用は、過疎地でのMaaS実現の足かせとなっている費用負担問題を解消する取り組みの一つである。北海道上士幌町はトラストバンクと協力し、コミュニティバスを2018年に導入した。経済産業省と国土交通省によるMaaS社会実装支援プログラム「スマートモビリティチャレンジ」の対象地域の一つにもなり、2019年10月に実証実験を開始した。
ADASの普及とOBD車検
自動運転/先進運転支援システム(ADAS)の進化は、アフターマーケットにも変化をもたらしている。
国土交通省は2019年3月、車載式故障診断装置を活用した自動車検査手法(通称「OBD車検」)のあり方についての最終報告書を公表した。これにより、2024年から排ガス等発散防止装置と運転支援技術、自動運転技術について、OBD車検を行うことになった。
OBD車検の導入は10年くらい前から検討されていた。さまざまな方式が考えられたが、整備業者など関係業界の意向を踏まえ、法定スキャンツールを用いる検査方式が採用された。検査機能を完全にクルマ側に持たせるのではなく、法定の汎用ツールによって整備工場がスキャンする。
OBD車検では、自動車技術総合機構にあるサーバに故障コード(DTC)を予め格納しておく。車両のOBDデータを法定スキャンツールで読み取り、機構のサーバにアクセスして、車検の合否判定を自動で行う。
インフラと協調する総合的な技術開発が求められる
車の技術開発環境は劇的に変わりつつある。私自身、かつては車両(自動車と鉄道)の運動制御やNVH(騒音・振動・ハーシュネス)などを研究していたが、時代が経つにつれ、車両単体では解決できない問題が出てきた。そこでハードウェアだけでなく、人間との関係やサービス、インフラ、あるいはMaaSまで、研究対象を拡げてきた。
鉄道はもともとインフラ協調が前提のシステムになっていたが、自動車はそうではなかった。最近になってようやく皆がそのことに気づき始め、インフラと人間と自動車を情報通信技術で結びつける高度道路交通システム(ITS=Intelligent Transport Systems)が注目を集めている。運動制御やNVH、乗り心地の問題は、インフラとも連携した総合的な開発を行うべき時代になっている。
東京大学の生産技術研究所の付属施設である千葉実験所は、もともと西千葉(千葉市弥生町)にあり、例えば、位置エネルギーを活用した世界初の省エネ型都市交通システム「エコライド」の試験などを行っていた。
千葉実験所は、2017年に西千葉から東京大学の柏キャンパス(柏市)に機能移転した。敷地内には最新の研究棟が建てられただけでなく、線路も敷かれ、ITS研究関連の大規模な屋外実験を行えるようになっている。例えば、踏切を車が通過することを想定した実験なども可能である。自動車メーカーは、一回り規模の大きい日本自動車研究所(JARI)のテストコースを使うことが多いが、千葉実験所は特に自動運転開発ベンチャーが主に使っている。
生産技術研究所は、自分たちでITSの研究を行うだけでなく、このようなスタートアップの研究開発活動も同時に支援しながら、これからの社会にふさわしいモビリティの構築に貢献していく方針である。
FOURIN世界自動車技術調査月報
(FOURIN社転載許諾済)