<VW>2029年までにBEV最大75モデル投入、累計2,600万台の生産を計画
2020.03.02VWグループのBEV量産計画が2019年9月に本格始動、VWがID.3、PorscheがTaycanの生産を開始した。ID.3、Taycanとも電動車専用プラットフォームMEBおよびPPEの最初のモデルであり、2016年以降電動車生産に舵を切ったVWグループの計画が動き出したことになる。
VWはBEVの投入数と累計生産計画を明かしてきたが、2019年に入って2度上方修正し、最新の計画(2019年11月発表)では、2029年までにBEVを最大75モデル発売し、2,600万台生産する予定。2,600万台の内訳は種類別には2,000万台がMEBベース車、地域別には過半を中国とすることが想定されている。
2022年までにドイツのZwickau、Emden、Hannover、Dresdenの5工場とチェコMladá Boleslav(Skoda)、米国Chattanooga、中国・佛山、上海安亭鎮の計8工場でMEBベース車を生産する計画。
ID.ファミリーのコンセプトカーは複数提示、製品化について言及されているモデルもあるが、名称および生産工場については不明な点も多い。これまでにHannoverでバン(ID.Buzzベース)、EmdenでA-SUV(ID.Nextベース、ただしMEBベースかは不確定)とAudi、SEAT車、DresdenでID.3、Chattanoogaで小型SUV(ID.Crozzベース、一部報道ではID.4)、中国・佛山と上海安亭鎮でID.3、A-SUV、Mladá Boleslavでは小型SUV(Vision iVベース)を生産することが発表済みである。
MEBベース車向けの部品はBrunswick、Kassel、Salzgitter、Wolfsburg工場で生産する計画。ID.3用部品の生産工場は明らかになっているが、前述の4工場のほかドイツHannoverとポーランドPoznan工場からも部品を供給していることが判る。
電動車の量産化に当たり、最大の課題となるのがバッテリーの確保であるが、VWは段階を踏んで欧州でのバッテリーセル量産体制確立を目指す方針。2019年現在はID.ファミリー向けバッテリーの必要量確保と、生産を始めるためのノウハウ蓄積を始めた段階にある。
ID.3などのモデル向けには、SKI、LG化学、CATLからバッテリーセルを調達することで合意。生産開始準備として、2019年後半からVWのドイツSalzgitterにあるCoE(Center of Excellence)に開設したバッテリーセルのパイロット生産ラインでパイロット生産を開始した。
また、スウェーデンのNorthvoltと合弁で、Salzgitterに能力16GWh/年のギガファクトリーを建設し、2023年末に稼働することも決まっている。
PHEVについては、2019年まではVW、Audi、Porscheで設定があり、SkodaとSEATにはなかったが2020年以降両ブランドでも複数モデルで展開予定。また、BEVについても、VW up!の姉妹車Skoda CitigoとSEAT MiiのBEVが発売される。Mladá Boleslav工場では、2019年9月にPHEV向けの高電圧バッテリーの生産を15万台分/年の規模で開始した。
VWグループ、電動車戦略
▽電動車投入、生産目標
2019年11月、BEVのモデル投入数と累計生産台数、達成時期を更新。2019年3月発表の2028年までにBEVを70モデル市場投入し、累計生産台数を2,200万台投入する計画から、2029年までにBEVを最大75モデル発売し、2,600万台生産する計画に上方修正した。
- 2,600万台のうち、2,000万台程度はMEBベース車、残りはPPE車とする。
- 2,600万台のうち、5割超は中国での生産を想定。2023年までにMEBベース車10モデルを発売する予定(2019年10月発表)。
- 同計画の中で2029年までに600モデルのハイブリッド車(PHEV、HEV、mHEVと考えられる)を投入し、600万台販売する目標も掲げている。
Audiは、2019年10月発表のRoadmap Eの中で、2025年までに30モデルの電動車(BEV/PHEV)を発売し、販売の4割を電動車とする目標を設定。
- うち、中国では2021年までに9モデル超を投入し、2025年までに同国で販売するモデルは全て電動車とすることを表明(2019年11月)。
▽MEBおよびPPEベースBEV生産計画
MEBベース車は2022年までに世界の8工場で生産する予定。生産工場は既に発表済みのドイツ国内工場Zwickau、Emden、Hannover、Dresdenに加え、チェコMladá Boleslav(Skoda)、米国Chattanooga、中国・佛山、上海安亭鎮の3工場でも生産する。以下は2019年11月現在発表済みの工場別生産モデルの予定。
- Zwickau:ID.3を2019年11月に生産開始。Audiの小型SUV(Q4 e-tronベース車)など他ブランド車も追加予定。
- Emden: ID.Next(A-SUV)を2022年に生産開始予定。ただし、このモデルはMEBベースではない可能性がある。
- Hannover:2022年からID.Buzz(ミニバス)の生産開始予定。
- Dresden:2020年秋からID.3の生産を開始。別囲みに詳述。
- Chattanooga: ID.ファミリーのSUVを2022年から生産予定。
- 佛山、安亭鎮:2020年にID.ファミリーのSUVの生産を開始予定。
PPEベース車はPorscheのドイツZuffenhausenで2019年9月にTaycanの生産を開始。2020年内に派生車Taycan Cross Turismoを追加予定。Audiの工場は未確定の部分が多いが、ドイツIngolstadt、Neckarsulmのいずれか、もしくは両方で生産予定。
このほか、Brunswick、Kassel、Salzgitter、Wolfsburg工場で電動車の部品を生産する計画。以下はID.3用部品の生産で明らかになっている工場と部品名(ドイツHannoverとポーランドPoznanが含まれているが、VW発表の電動車部品工場一覧にはない)。
- Brunswick:駆動系部品(ショックアブソーバー、フロント/リアアクスルなど)、バッテリーシステム関連(ハウジング、ソフトウェアなど)、
- Kassel:電動ドライブ(組立含む)、プレス部品
- Salzgitter:電動ドライブ用ローター、固定子
- Wolfsburg:ドライブシャフト
- Hannover:モーターハウジング
- Poznan(ポーランド):トランスミッションハウジング
バッテリーセル生産では、スウェーデンNorthvoltと提携。
▽投資計画
2019年11月、2020~2024年に電動化、デジタライゼーション促進のため約600億ユーロを投資する計画を発表。中国での合弁事業向けは含まない。10年間の投資計画Planning Round 68の一環で、前年までの計画(5年間で330億ユーロを投資)から1割程度増額した。
- 600億ユーロのうち、330億ユーロは電動車、270億ユーロはハイブリッド化とデジタライゼーションに振り向ける。
- この600億ユーロは、VWグループのR&Dおよび無形資産の投資額の4割に相当する。
▽MEBおよびPPEベースBEVの製品計画
2019年11月現在、ID.ファミリーのコンセプトカーとして、ID.(ハッチバック)、ID. CROZZ(C-SUV)、ID. BUZZ(バン)、ID. VIZZION(セダン)、ID. BUGGY(バギー)、ID. ROOMZZ(3列シートSUV)、ID. SPACE VIZZION(SW)の7モデルが発表されている。
- うち、ID. CROZZが2021年、ID.BUZZが2022年に製品化される予定。2024年頃、セダン(PassatクラスもしくはPhaton後継の位置付け)が市場投入される可能性がある。
- A-SUVのID.Nextコンセプトもあるが、公式リリースではID.シリーズのコンセプトとして含まれていない。また、レーシングカーを想定したID.Rも含まれない。
VW以外のブランドのMEB車の計画は以下。
- Audi:小型SUV(Q4コンセプト)
- Skoda:3列SUV(コンセプトVision iV)
- SEAT:SUV(Cupra Tavascanコンセプト)
PPEはPorscheとAudiで使用。
- Porsche:Taycan、Taycan Cross Turismoを新規投入。次期MacanはPPEベースのBEV専用車とする。
- Audi:A5サイズのE5、Taycanベースのe-tron GTの投入を計画。
▽MEBおよびPPEベース以外のBEVの計画
VW up!の改良(2019年秋)に合わせ、姉妹車のSkoda CitigoとSEAT MiiにBEVを設定。両モデルとも2020年初に発売予定。バッテリーシステムを更新し、バッテリー容量が前代比7割増。最大航続距離は前代の160kmから260kmに伸びた。
中国ではLavida、Golf、BoraのBEVを販売。
▽PHEVの製品計画
VW: Golf、Passat、Touaregに設定あり。GTEの名称。
Audi:従前はe-tronを冠したモデルもあったが、2019年以降PHEVはTFSI eの名称を用いる模様。A3、A6、A7 Sportback、A8、Q5で設定がある。
Skoda:2020年Superb、Octaviaで設定。名称はiV。
SEAT:2020年にLeon、Taraccoで設定予定であるが、PHEVを表す名称は未発表。このほか、サブブランドCupra専用車のPHEVクロスオーバーFormenterが発売される見通し。
▽PHEVおよび関連部品生産計画
2019年9月、SkodaがチェコMladá Boleslav工場でPHEV向けの高電圧トラクションバッテリーの生産を開始した。生産能力は15万台分/年。
2019年9月、SkodaがチェコKvasiny工場でSuperbのPHEVであるSuperb iVの生産を開始した。
VWグループ広報資料、各種報道より作成
バッテリー戦略
2020~2028年に累計2,200万台生産する計画の時点で、欧州と中国のみで300GWh以上のバッテリーが必要と見込んでいた。
VWは、①まず必要量のバッテリーを確保し、②量産体制確立に向けたノウハウ蓄積を進め、③ギガファクトリーを建設、④リチウムイオン電池と全固体電池の工場を欧州に設置する、という4段階でバッテリー生産体制を構築する考え。
①電動車攻勢第1弾(ID.3やTaycan、e-tronなど)向けとして、SKI、LG化学、CATLからバッテリーセルを調達することで合意。
②欧州でのバッテリーセル生産体制構築に向け、2019年後半からVWのドイツSalzgitterにあるCoE(Center of Excellence)に開設したバッテリーセルのパイロット生産ラインでパイロット生産を開始。CoEはグループ内のバッテリーセルの開発、調達、品質保証関連の機能を統括する。
③Northvoltと合弁で、Salzgitterギガファクトリーを建設し、2023年末~2024年初に稼働することが決定。
④全固体電池の開発で米国のQuantumScapeと提携。
量産体制確立に向けた施策として、原材料の確保、材料の使用量を減らす研究の推進を挙げている。
- リチウムについては、2019年4月に中国の贛鋒鋰業(Ganfeng Lithium)と10年契約の覚書を交わした。VWによると、Ganfengからの供給のみで、VWが使用するリチウムの大部分が賄えるという。このほか、コンゴ民主共和国、オーストラリア、ボリビア、チリ、アルゼンチンからも調達する。
- このほか、コバルトの使用量を減らすための技術開発を推進。陰極の重量比率に占めるコバルトの量を、2019年現在の12~14%から向こう3~5年間で5%まで削減する計画。コバルトを含まないバッテリーセルの開発も進めている。
電動車関連の提携・出資動向
▽Fordとの提携拡大
2019年7月、Fordとの提携におけるEVおよび自動運転分野での協業内容を発表。VWがMEBをFordに供給することとなった。
- 両社は2018年6月に業務提携に向けた覚書を締結。
- Fordが開発するMEBベース車を1モデル以上2023年に欧州市場で投入し、2023年からの6年間で計60万台販売する計画。
- VWは60万台分のアーキテクチャや関連部品の供給で100億~200億ドルの売上を見込む。ただし、この60万台はグループ目標の累計生産台数2,600万台には含まれない。
▽Northvoltとの提携
2019年3月、スウェーデンのバッテリーセルメーカーNorthvoltとバッテリー関連の調査を共同で行うコンソーシアムEuropean Battery Unionを結成。
2019年6月、Northvoltに合計10億ドルを出資するコンソーシアムに参加。VWのほか、BMWなど6社で形成。
2019年9月、Northvoltと折半出資でドイツSalzgitterにリチウムイオンバッテリーセル工場を設置することで合意。この際、VWは9億ユーロを投資したが、合弁事業設立向けのほか、Northvoltの株式20%取得費用も含まれる。
- 2020年に工場建設を開始し、2023年末から2024年初にかけて16GWh/年の工場として稼働する計画。
- 1,000人を雇用。うち、300人はVWの開発センターとパイロット生産ライン(下記参照)、700人は合弁工場でのバッテリーセル生産に従事。
2019年9月、VWのドイツSalzgitterにあるCoE(Center of Excellence)にバッテリーセルのパイロット生産ラインを開設。投資額は1億ユーロ。
- 2020年以降、10GWh/年の規模でバッテリーセルを生産する。
- これに加え、2020年にリサイクル用のパイロットラインの建設を開始する予定。
▽スタートアップに出資
2019年1月、バッテリー関連の調査を手掛ける米国のスタートアップForge Nanoに1,000万ドルを投資したことを発表。
- Forge Nanoはコロラド州Louisvilleが本拠。原子法堆積(ALD)によるバッテリー向けコアシェルについて調査し、バッテリーセルの密度を上げることを目指している。
- VWが出資する以前の2014年からバッテリーの原材料の調査で協業していた。
電動車生産動向
▽ドイツZwickau工場で生産を開始
2019年11月4日、Zwickau工場でID.3の生産を開始した。
- 2020年の生産計画は10万台。2021年以降、最大33万台/年のペースで生産予定。
- 内燃機関車工場からの転換費用は12億ユーロ。拡張工事は2018年に開始、2021年に完工予定。ボディショップ、ペイントショップ、インフラの設備刷新が行われてきたが、ID.3生産開始までに、2本あるうちの組立ラインの転換が終了した。もう1本のラインでは、2020年半ばまでGolf Variantを生産し、同年夏に電動車用に転換する予定。2本の生産ラインの転換が完了する2021年以降、同工場でVWグループの3ブランドのMEBベース車(VW、Audi、SEAT)を6モデル生産する計画。
- このほか、生産棟を12棟新設し、1日当たりの生産能力を1,350台から1,500台まで増強予定。2021年以降、Zwickau工場で使用されるプレス部品は全て同工場で生産する計画で、7,400万ユーロを投資してプレスショップを5万㎡拡張する。その際、鋼板から最終製品まで全自動の生産工程を導入する計画。
- 生産開始時は8,000人体制でスタートするが、2020年末までに1.3万人まで増員予定。
- 同工場で使用されるロボットは約1,700台。ドライバーレス輸送システムや全自動生産工程なども導入。
- 欧州では2020年夏に発売予定で、2019年11月現在既に3.5万台の受注を獲得。
▽ドイツDresden工場での生産計画
2019年11月、2020年秋からDresden工場でID.3の生産を開始すると発表した。その後、ID.ファミリーの別のモデルを追加する可能性がある。
- 2019年現在はe-Golfを生産している。
▽米国での生産計画
2019年11月、アラバマ州Chatanooga工場でのMEVベース車生産計画を発表。
- 約8億ドルを投じて敷地を56.4万ft拡張。ボディショップを新設するほか、バッテリーパックの組立工場を建設予定。同工場で組み立てるバッテリーセルはSKIがジョージア州Commerceで建設中の工場から供給される見通し。
- 2022年からID.ファミリーのSUV(詳細未発表であるが、一部報道ではID.4)を生産する計画。電動車生産時には1,000人を増員予定。
▽中国で上海VWの電動車用工場が完成
2019年11月、上海の安亭鎮の新工場が完成し、ID.3のプレ生産を開始したと発表。本格生産は2020年10月開始予定。
- 生産能力は年30万台。
- 2020年内にID.Nextを追加予定。
- 効率化を進めた結果、既存工場よりも省スペース化し、フレキシビリティが高い。同工場では6種類のモデルを同時に生産できる。
安亭鎮工場と同時に、一汽VWの佛山工場でも年30万台規模で生産開始予定であり、2020年の中国でのMEBベース車生産規模は60万台となる計画。
中国では2025年までにVWグループブランドのMEBを最大15モデル生産する計画。
▽Porsche Taycan用の新工場が完成
2019年9月、Zuffenhausen工場のTaycan生産工場が完成。
- 投資額は7億ユーロ。ボディショップ、ペイントショップの新設もしくは設備刷新と、モーターおよび電動車部品の生産施設設置を行う。うち、1億ユーロは911生産でも使うボディショップの新設に振り向けた。新設したエリアの建屋面積は計17万㎡(既存工場の空き地に工場を設置しているため、敷地が広がったわけではない)。
- Taycanの生産計画は年2万台。生産開始前に3万台を超える受注があるため、増産する意向であるが具体的な計画は未発表。
- 当面、Taycanと911、718(Cayman、Boxster)を並行して生産する。
- 伝統的なコンベアベルトによる部品や車両の輸送システムは使わず、自走車を使用するなど最新のデジタルネットーワーク技術を導入。
- 2,000人を新規雇用する。当初計画では1,500人の予定であったが、予想を上回る受注が発生しているため増員した。
▽SkodaがPHEV向け高電圧バッテリーの生産を開始
2019年9月、SkodaがチェコMladá Boleslav工場でPHEV向けの高電圧トラクションバッテリーの生産を開始した。
- VW、Skoda、Audi、SEATブランドのMQBベース車向け。
- 投資額は2,530万ユーロ。
- 生産能力は15万台分/年。
- 電動車部品生産に従事する従業員数は200人前後。
▽SkodaがSuperb iVの生産を開始
2019年9月、SkodaがチェコKvasiny工場でSuperbのPHEVであるSuperb iVの生産を開始した。同モデルはSkoda初のPHEV。投資額は1,200万ユーロ。
- 内燃機関車のSuperbとともに生産するため、ボディ生産工程、組立ホールなどを改修した。
- Mladá Boleslav工場で電動車部品の生産を始めたこともあり、従業員が電動車に関する知識を身に着けるためのトレーニングセンターをKvasiny工場に開設しており、2019年9月までに5,500人が履修終了。