中国のEV事情。日本メーカーの心配と対応策
中国EV戦略
自動車の後発国である中国では、2009年からEV普及の施策を打った。PM2.5の改善も狙いの一つである。内燃機関では部品数が多く、設計・加工など基本技術が育たず、性能・精度・信頼性において容易に先進国との差は縮まらない。そこで部品数が少なく、開発・生産が容易なEVに絞ったと考えられる。
最初の施策は十城千輌プロジェクト(2009~2012年)である。10都市以上で1000台規模のタクシー・バスを中心に、新エネ車(現実的にはEV)を普及させるため、多額の補助金が支払われたが、当初の台数目標を達成できなかった。
しかし、国内外の知識・ノウハウ・部品を結集し、多くの都市でEVタクシーを短期に作り上げ、走らせた。モーター・電池の制御や周辺機器の電動化に案外苦労することなど、開発側にとって多くの技術情報や経験を得た。
2012年以降は「省エネ・新エネ車産業発展計画」により、各種の支援や大優遇策などの施策で支援した。EVの実需にはまだ見えないが、世界のEV生産台数の1/3を占め、LIB(リチウムイオン電池)、電気系、周辺電装などの開発や量産に、人材や部品メーカーが世界から集まった。
LIB(リチウムイオン電池)
ソニーが1991年に実用化に成功し、日本メーカーが育てたLIBだが、近年、世界生産量の大半を中国で生産している。一般的にEVのコストの60%以上はLIBと思われる。多くの国でLIBを生産するが、資金や貿易等いろいろな領域に政府が積極的に関与する中国の電池戦略にはなかなか対抗しづらい。
LIBの中国生産量は、2015年で17,652MWhで世界トップシェアの63%である。2016年では更に増産している。
新エネ車の補助金支給にはLIBの現地生産を認証する「車載用電池模範規準認証」が必要だが、入手できない韓国メーカーは、欧州自動車メーカーとの協業を目指している。LIBの主要4部材(正極材、負極材、電解液、セパレーター)についても、かつての日本に代わり、中国が4部材とも世界トップシェアになった。多く作ればコストも下がり、品質も安定する。
世界中でLIBを使うことになっても、その資源である炭酸リチウムが無制限に南米から供給されるだろうか。
技術先進国である日本企業の役割としては、リサイクル・リユース・廃棄方法の開発があり、もう一つは1充電の航続距離500kmを目指す電池の開発がある。海外でも同様であるが、日本でも政府機関・大学・企業が協力あるいは競って、次世代電池・次々世代電池の研究を進めている。次世代の本命は可燃性有機溶媒の電解液を固体に変えた全固体電池である。
全固体電池は現在でも特殊用途向けに少量生産されている。リチウムイオンの移動が容易な固体電解質の発見に挑戦しているが、昨年、低コストで安全性が高い量産向きの新たな素材が発表された。トヨタが採用との報道もあったが、まだ多くの研究開発が多方面で進められている。LIBと同じ運命をたどらないよう、マネジメント面での戦略が必要である。
新エネ車としてのFCEVの可能性
トヨタはFCEV MIRAIを2014年12月に発売、2016年末までに約1,500台販売した。国も水素社会を提唱しているが、水素ステーションは100ヵ所にも満たない。他にホンダや海外では韓国・中国・ドイツなどが少量生産する。少ない電力で水素を作るシステム(コークス製造やアルコール改質等)は限られ、水素ステーションの建築費は高額である。現時点では見通しは立てにくい。
(トヨタ自動車・日産・BYDのHPと発表資料、およびFOURINの月報などを参考に作成)
<FOURIN世界自動車技術調査月報(FOURIN社 転載許諾済み)>