「英語ができなくても採用します」自動車業界の日系メーカーからエンジニアを奪う、外資系の採用戦略
外資系といえば「実力で評価してもらえる」「働き方が柔軟」などのイメージがある一方、「“デキる人”しか働けない」というイメージもあるため、転職を諦める人も少なくない。しかし、最近は外資系のある採用戦略によって、日系メーカーから外資系に転職するエンジニアが増えているという。
日系から外資系への転職者増 「実力評価」を求める
オートモーティブ・ジョブズのデータによると、2017年度に自動車業界の日系メーカーから外資系に転職した人は、2013年度と比べて4.2倍に増加していた。
外資系に転職するエンジニアは、日系メーカーに根強く残る年功序列の風土に不満を抱えている人が多い。依然として勤続年数に応じて役職や年収が決まる日系メーカーも少なくないため、実力で評価される外資系を転職先に選んでいるのだ。日系メーカーよりも高年収が狙える点や、メガサプライヤーの持つ最先端の技術力も、理由として挙がる。
「英語力不問」で採用強化
外資系はさらに、「英語力不問」を打ち出すことで、日系メーカー出身者の採用を加速させている。これまではビジネスレベルの英語力が必要なことがほとんどだったが、現在は英語力を問わず採用する企業が増えてきている。
こうした企業の多くは、社内での英語研修や社外の語学レッスンの費用の補助、TOEICの受験費用負担、e-ラーニング(インターネット学習)の導入などで英語学習をフォロー。入社後に英語力を高められるよう、サポート体制を整えている。
「外資系に興味はあるものの、英語に自信がないから挑戦できない」と転職を諦めていた日系メーカーのエンジニアにとって、こうした企業は魅力的に映る。入社時には英語が話せなくてもいい上に、研修で英語力を高められるチャンスもあるからだ。
自動車部品メーカーのなかで売上高が世界トップの独・ボッシュには、英語力を「あれば望ましい能力」としている求人が複数あり、サンルーフ大手の独・ベバストも機械設計やソフトウェア開発の職種などで条件を「英語に抵抗がないこと」にとどめている。
こうした企業が増えると、日系メーカーから外資系への転職には一層拍車がかかるだろう。
ケイレツ解体が英語のハードルを下げるきっかけに
オートモーティブ・ジョブズの自動車業界採用アナリスト 関寺庸平は、入社時に英語力が求められなくなった理由のひとつはケイレツ解体だと説明する。
「自動車メーカーがケイレツ内外を問わず品質やコストに優れた製品を採用するようになったため、外資系も国内事業の拡大に注力しています。メガサプライヤーを中心に、開発・設計や実車試験なども国内で実施する動きも見られるようになりました。こうしたことを背景に国内のプロジェクトが増えているため、英語が流暢ではなくても仕事に支障がなくなってきています」(関寺)
入社後に英語力が身に付けば、仕事の幅を広げていくことも可能。本国と共同で行うプロジェクトに参加したり、海外赴任したりするチャンスもある。
「現在は、日系メーカーと外資系を同じ土俵で比べられる状態に変わってきています。『英語が話せないから外資系には転職できない』ということが無くなると、企業の中身だけで転職先を選べるようになる。英語力不問の求人が増えれば、ますます日系メーカーから外資系への転職者が増加していくのではないでしょうか」(関寺)
さらなる採用戦略…外資系が日系メーカーからエンジニアを奪う
外資系の打つ手は、英語力の条件緩和だけにとどまらない。ボッシュは採用サイトで「離職率1%」を打ち出し、定着率をアピールしている。2015年には渋谷本社にボッシュブランドを体現したカフェ「café 1886 at Bosch」をオープン。企業のブランディングやイメージアップを通して、採用促進も狙っていると考えられる。
部品メーカーで売上高世界2位の独・コンチネンタルは、横浜駅を利用する数多くのエンジニアに向け、大々的な採用広告を出し、ソフトウェアエンジニア・システムエンジニアを募っている。
自動車業界は、どのメーカーも人手不足にあえいでいる。こうした状況のなか、日系メーカーからエンジニアを奪いにかかっている外資系。日系メーカーにも選ばれるための戦略が求められる。
(オートモーティブ・ジョブズ編集部 山岡結央)
関寺 庸平
NHKや日本経済新聞に、自動車業界・製造業の転職市場についてコメントを提供している。前職では上場メーカーで技術営業をしていた。