<ダイハツ>新車両設計DNGAを発表 一括企画開発やマルチスパークエンジンが目玉
2019.12.12新車両設計構想DNGAを導入
ダイハツは2019年6月、事業環境の変化にスピーディに対応することを目的に、新車両設計構想DNGA(Daihatsu New Global Architecture)を発表した。7月発売の新型Tantoから採用する。
DNGAは、地域や車種・セグメントの枠を超えて、設計思想を共通化する一括企画開発が主軸となっている。ダイハツはDNGAで、新車開発の速度を上げ、部品の共通化率を高める。これにより、世界の様々な市場ニーズ変化に迅速に対応する。
▽概要
ダイハツは2019年6月、新世代の車両設計構想DNGA(Daihatsu New Global Architecture)を発表し、DNGA構想に基づく各種技術を公表した。
- 日本や新興国での事業環境の変化に迅速に対応する。
- プラットフォームやシャシ、パワートレインなどを全面刷新した上で、一括企画開発によりラインアップ全体の競争力を強化する。
▽設計構想
DNGA設計構想は、「小は大を兼ねる」をスローガンに日本の軽自動車を最小単位とし、Aセグメント、新興国Bセグメント車までの設計思想を共通化する。
- 開発の高効率化(スピードアップ)や、部品の共通化率を高めることでコスト競争力を高める。
▽技術開発
一括企画開発に合わせて、プラットフォーム、パワートレイン、シャシなどの全ての構成要素を同時に全面改良する。
- プラットフォームやシャシは、軽量化・高剛性化を追求。
- エンジンは燃焼素性を改善し、燃費・環境性能、動力性能など全ての面で性能を高める。
▽CASEへの対応
コンベ車の車両技術を追求した上で、将来的な車両電動化を進める方針。将来の電動化を想定した車両設計を導入する。
- 親会社のトヨタと連携した企画や開発を行い、競争力を強化。
- 運転支援システムスマートアシストの進化を継続。
- コネクテッドサービスの展開を見据えた電子プラットフォームを設定する方針。
商品開発・プラットフォームに関する主な戦略
DNGAでは、プラットフォーム(PF)のフレームレイアウトを、軽自動車を起点として相似形で設計する。その上で、骨格レイアウトや着座位置、エンジン・サスペンションの取り付け位置などを共通化する。
ダイハツは、DNGA導入に伴いPFを全面刷新した。新PFでは、軽量・高剛性化を重点項目として位置づけ、特に曲げ剛性を先代比で約30%高めた。これまでの直線主体フレームレイアウトから、曲線主体のスムーズで連続性を持ったラインに変更した。
新PFのフレームには、剛性の向上と軽量化を目的に主要骨格部分に引張強度980MPa級の超ハイテン材を使用した。また、超ハイテン材を、アッパーボディの主要骨格にも積極的に用いた。
ダイハツは、新PFの導入に合わせてサスペンションも刷新した。サスペンションは前後合わせて従来比10kg軽量となった。フロントサスペンションでは、形状の変化が少ない連続性がある新設計フレームを採用して、剛向上と板厚の低減が図られた。
また中空スタビライザや軽量ブッシュの採用も軽量化に寄与している。リアサスペンションには、フロントと同様に中空スタビライザを採用。さらにウレタン製バンプストッパーの採用とトーションビームのアーム長短縮により軽量化を図った。
またサスペンション周辺部品のレイアウトも変更した。ブッシュやキングピン(操舵中心軸)の搭載角度を変え、操舵時や凹凸路面通過時のタイヤ復元力を高めた。これにより、直進安定性や操縦安定性が向上する。
▽DNGAによるプラットフォーム設計構想
ダイハツはモデルラインアップ全体の商品競争力強化に向けて、地域や車種、セグメントの枠を超えて設計思想を共通化する一括企画開発を導入する。
- 日本の軽自動車を最小単位とし、エンジンやサスペンションの取り付け位置、着座位置、骨格配置など共通化可能な部分を予め設定し、性能や仕様を含めて一括で企画する。
- 軽自動車をベースに相似形を用いて、他のセグメントのモデルを設計する。
- 一括企画開発により、セグメントを超えて部品を共通化する。共通部品の採用割合(金額ベース)を軽自動車で75%、A/Bセグメント小型車で80%とする方針。
- 2019年7月に発売する新型軽モデルTantoから採用する。ダイハツは、2025年までに、DNGA設計構想を用いたモデルを15ボディタイプ、21車種に展開する計画である。一括企画によるスケールメリットを高め、商品のコスト競争力を強化する考え。
車両の基本設計において、安全・安心・心地よさの追求をテーマに、視線ブレ量からの視覚負担を軽減することを重点項目とした。
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シャシや車体の軽量・高剛性化、サスペンションジオメトリーの最適化、シートのホールド性などを追求する。
▽DNGAプラットフォーム・アッパーボディ
ダイハツはDNGA導入に伴い、高剛性・軽量化を追求するプラットフォーム(PF)を新設計。PFの曲げ剛性を従来比30%高めた。
- PFのフレームレイアウトを、直線主体から曲線主体のスムーズで連続性があるラインに変更することで剛性を向上。
- PFフレームレイアウトの変更に加えて、ハイテン材の採用を拡大した。フレームの主要骨格部に引張強度980MPa級のハイテン材を採用した。
- アッパーボディにもハイテン材を積極的に採用した。新型Tantoの場合、440MPa級以上のハイテン材使用比率を先代比10%拡大した。
- アッパーボディのうちAピラー、Bピラー、ルーフレール、サイドシルなどに980MPaの超ハイテン材を採用して軽量化を図った。
- PFとアッパーボディ改良を通じて車両剛性を高めて、サスペンション入力に対する搭乗者の移動量を低減した。
▽サスペンション
サスペンションはフレームでの軽量化と高剛性化の追求。さらにアブソーバーなどのジオメトリーを最適化して、走行安定性や操縦安定性、乗り心地を向上させた。
- フロントサスペンションフレームは、形状断点を廃止し、形状変化が少ない連続した形状に変更。これにより剛性と強度を高めることで、フレームの板厚を低減して軽量化を図った。
- フロントサスペンションでは、ロアアームの一枚板金化や中空スタビライザの採用など、周辺部品でも軽量化を図っている。
- リアサスペンションフレームでは、トーションビームのアーム長の短縮や中空スタビライザを採用。また、バンプストッパーのウレタン化等を通じて軽量化を図った。
- 全面改良により前後サスペンション合わせて約10kg軽量化した。サスペンション、プラットフォーム、アッパーボディと合わせて、新型Tantoでは、車両全体で先代比80kg軽量化した。
サスペンションフレームの全面改良と合わせて、ショックアブソーバーなどのセッティングを最適化した。
- フロントサスペンションでは、ロールセンター高を下げて走行安定性を向上(プラットフォームやアッパーボディと合わせて、ロール慣性モーメントを従来比約12%低減)。また、キングピンオフセットをマイナススクラブ化[タイヤの接地面中心点に対して、外側にキングピン(操舵中心軸)の延長線がある状態:下図参照]して、操舵時に直進方向へのタイヤの復元力を高めることで直進安定性を高めた。
- リアサスペンションではブッシュを斜めに配置し、横力に対するオーバーステアを低減し、操縦安定を高めた。
- 前後サスペンションのスプリングレートを下げて衝撃吸収性を確保した。
DNGAによるパワートレイン技術戦略
ダイハツはパワートレインにもDNGA設計思想を取り入れた。エンジンやCVTに日本初/業界初技術を採用した。環境性能と動力性能の両立を目指すものである。
ダイハツは、エンジンに日本で初めてマルチスパーク技術(複数回点火)を導入した。1回目の点火で生成した火炎核に2回目の点火でエネルギーを供給して火炎核の成長を促す。
また、高タンブル吸気ポートや噴射燃料の噴霧化(微粒化)による空気と燃料の混合促進技術を採用しており、マルチスパーク技術と組み合わせることで、高速燃焼を実現した。このほか、DNGAエンジンでは、熱マネジメントも徹底している。排気ポート集約型エキゾーストマニホールドによる触媒の早期暖機や、燃焼室のコンパクト化による冷却損失の低減を図った。
ダイハツは変速機において、世界初のパワースプリット式CVT(D-CVT:Dual mode CVT)を採用した。ベルト・プーリとギア駆動の両方を利用するシステムである。低速域では従来と同様のベルト・プーリで駆動を行い、高速域ではベルト・プーリとギアの2つの動力伝達機能を合わせたスプリットモードに移行する。
スプリットモードでは、アウトプット側に配置したプラネタリの増速機能を利用し、プーリの変速機構と組み合わせることで、高速領域での変速比幅の拡大が可能となった。これにより、高速領域でのエンジン回転数上昇を低減し、燃費性能や静粛性が向上する。また動力伝達効率の高いギア駆動を活用するため、燃費と加速性能の両立も可能であるとしている。
▽DNGAエンジン
ダイハツは、エンジン開発でシリンダー内での燃料と空気の混合と火炎伝播を促進し高速燃焼を追求している。今回、日本で初めてマルチスパーク(複数回点火)技術を採用した。
- シリンダー内での混合促進を目指し、吸気ポートをストレート化することで、シリンダー内のタンブルを強化。
- デュアルポート噴射(各吸気ポートに1つ、1気筒あたり2本インジェクターを配置)により噴射燃料を微粒化。噴射を粒状から噴霧状に変更し、噴霧を低ペネトレーション化して、スワール噴霧を形成。これにより、燃焼室やポート内の燃料付着を低減した。
- 点火制御には、マルチスパークを利用した。従来の点火方式では、火炎核の自己成長のみであり、火炎成長が遅かった。マルチスパークにより、1回目放電で生成した火炎核に対し、2回目の放電でエネルギーを供給する。これにより、火炎核の成長を早めて火炎伝播を促進する。
- マルチスパーク用の点火コイルはダイヤモンド電機製を採用。巻線やスイッチング素子の改良により、1/1,000秒単位で複数回放電が可能である。また体積あたりの出力エネルギーを世界最高水準とした。
- ダイヤモンド電機によると、マルチスパークの導入による新型Tantoの燃費改善効果は1%と見込んでいる。
- ノッキング対策として大型EGRを採用した。
- 燃焼室の面積を先代比11%低減した。さらに表面の凹凸を減らすことで冷却損失を低減した。
- シリンダーヘッド内で排気ポートを1つに集約することで、熱損失を低減し、触媒を早期に暖機する。排ガス浄化性能を高めている。
- 初期は軽自動車向けに搭載するが、同じ燃焼コンセプトのエンジンをAセグメント車やBセグメント車にも展開し、ダイハツ全体で商品競争力を高める考えである。
▽軽自動車向けDNGAエンジンのスペック
項目 | 自然吸気 | ターボチャージャ |
排気量(CC) | 658 | |
ボア×ストローク(mm) | 63×70.4 (ストローク比1.12) |
|
最大出力(kW) | 38 | 47 |
最大トルク(N・m) | 60 | 100 |
質量(kg) | 50.6 | 54.9 |
▽DNGA用CVT
ダイハツは、動力伝達効率の向上と変速比幅の拡大を目的に、ギアとベルト・プーリを組み合わせたパワースプリットCVT(D-CVT:Dual mode CVT)を、世界で初めて実用化した。
- サイズの制約が厳しい軽や小型車ではプーリの大型化が難しく、従来型CVTでは、変速比幅が拡大できないため、トップギアの運転領域(高速域)で、加速時にエンジン回転数を上げる必要があった。このため、燃費悪化や音・振動が増加する。
- D-CVTは、従来のベルト・プーリにギア駆動を組み合わせたシステムである。高速域ではベルト・プーリとギアの両方を駆動に活用する。
- インプット側とアウトプット側に動力伝達用のギアを追加、アウトプット側には、さらにプラネタリギアも搭載する。
- D-CVTの場合、低速時では従来と同じベルト・プーリで動力を伝達。車速が上がると、ギア側にも動力を接続し、ベルト・プーリとの両方で駆動するスプリットモードとなる。
- スプリットモードの駆動は、ギアが40~90%の駆動力を担う。
- スプリットモードに移行すると、プーリをLow側にシフト。Lowにシフトしても、アウトプット側に配置したプラネタリの増速機能によりタイヤの回転数を上げることができる。この機構によりさらなる高速域でプーリによる変速が可能となった。
- D-CVTの機構により、変速比幅は5.3から7.3まで拡大(新型Tantoは、日本国内の使用環境に合わせて6.7まで使用)した。
- 変速比幅の拡大と動力伝達効率が高いギアの活用により、定地走行の燃費性能を向上。新型Tantoでは、60km/hで約12%、100km/hで約19%向上した。
- プーリの軸間は135mm、インプットギアとデファレンシャルの軸間は168mm。
- ダイハツはD-CVTを2シリーズ展開する方針で、同一軸間の仕様で軽自動車から150N・mクラスの小型車まで対応する。
- CVTベルトは軽・小型車間で共通化し、スケールメリットを創出。
- システムの小型化も追求。オイルポンプを小型化してプーリの軸間に配置した。
▽D-CVTの主要諸元
項目 | 小容量(経~小型) | 中容量(小型) |
トルク容量(N・m) | 100 | 150 |
変速比幅 | 7.3 | |
全長(mm) | 354 | |
軸間インプット-デフ(mm) | 168 | |
軸間プライマリ-セカンダリ(mm) | 136 | |
質量(kg) | 61.1 | 64.7 |
DNGAによる電動化・ADAS関連技術戦略
ダイハツのDNGAは、将来的な電動車の展開も想定している。例えば、エンジンコンパートメントには、モータなどの電動化ユニットの搭載余地を確保している。
またダイハツは、自社のADASであるスマートアシストIIIの機能・性能向上に取り組んでいる。ステレオカメラの認識機能をフル活用して、操舵支援付き車線逸脱防止や高機能ハイビーム制御などに用いる。支援機能の充実により安全性を高めた。
▽電動車開発
ダイハツは、国内やアジアなどの新興国での燃費や環境規制に対応するため、電動車の開発・展開も考慮している。
- 車両設計で、将来的な電動化を見据えたエンジンコンパートメントの設計を行う方針である。モータなどの電動化システムの搭載余地を確保する。
- ビジネスパートナーであるトヨタと電動車開発で連携する。
ダイハツはEV開発に向けて、トヨタ/マツダ/デンソーの共同出資開発コンソーシアムEV C.A. Spiritに参加。トヨタを含めた他社と連携している。
- 2019年内にEVのシステム規格などの開発を完了し、2020年以降、商品化向けた開発を進める計画。
- トヨタはEV戦略において、ダイハツやスズキとコンパクトEVを企画・開発を進める方針である。
▽ADAS開発
事故低減やドライバーの運転負担軽減を目指し、自社の運転支援システムスマートアシストIIIを進化。画像認識用ステレオカメラの性能をフル活用する制御ロジックを導入。
- 走行支援機能として、全車速追従式アダプティブクルーズコントロールや、操舵支援機能付きレーンキープコントロール及び車線逸脱防止システムを追加した。
- 夜間におけるドライバーの視界支援機能として、対向車部分をピンポイントで遮光するアダプティブドライビングビームや、ステアリング操作と連動して左右方向を照らす補助灯を点灯するサイドビューランプを追加した。
- 衝突防止機能として、前後誤発進防止機能や、標識認識による進入禁止通知機能などを追加した。
FOURIN世界自動車技術調査月報
(FOURIN社転載許諾済み)