【Lexus UX300e】ブランド初EVを既存のトヨタTNGAベースで投入、電池の信頼性と静粛性を中心に入念な対策
トヨタはLexusブランド初のEVとなるLexus UX300eを欧州一部市場と中国で2020年内に、日本で2021年初頭に発売する。UX300eは発売済みのエンジン車(UX 250h/UX 200)をベースとする高級CセグメントのEVクロスオーバーである。プラットフォームにはトヨタのTNGA(GA-C)を採用してEV仕様に改変した。
トヨタは現在、EV専用プラットフォームe-TNGAベースモデルの開発をアライアンス各社(Subaru、マツダ、スズキ等)と共に進めているが、e-TNGAモデル発売は2022年以降の模様。熟成したTNGAベースのEVをまず投入し、想定を上回るスピードで高まる(トヨタ)、EV需要の吸収を図る。
Lexus UX300e、概要
▽車種(セグメント)
CセグメントクロスオーバーSUV、5ドア5シーター
▽発売時期
2020年内(欧州、中国)、2021年1月(日本)
▽本体価格(税込み)
欧州: 50,000ユーロ~、中国: 362,000元~(約600万円~)
▽競合モデル
Tesla Model 3/Model Y、BMW iX3、M-Benz EQA、Audi Q4 e-tron
▽生産
全量をトヨタ自動車九州宮田工場(福岡県宮若市)で生産し世界各市場に輸出する。生産計画は約1,000台/月。
▽モデル概要
Lexusブランド初のEV。2005年以来170万台超を出荷したLexus ブランドHEVの知見を活用して開発。電池関連の信頼性、静粛性に特に力を注いだ。主要想定顧客は都市部の若年層。
開発・生産のコスト低減が進み実績があるHEVを重視するトヨタであるが、環境規制やトヨタの想定を上回るスピードで増えるEV需要を踏まえ、欧州(西・北欧)、中国で先行してEVを投入する。
- トヨタは2025年時点でのEV/FCEV世界販売100万台以上を目標に設定(2019年6月に当初目標の2030年から前倒し)。
ベースのUX 250h(HEV)/200(GE)は欧州では2019年の発売初年度に25,000台超を売上げた最量販Lexusモデル。
外観
主要諸元
項目 | UX300e (EV) |
(参考)UX 250h (HEV、FF仕様) |
セグメント | CセグメントクロスオーバーSUV | |
プラット フォーム |
TNGA GA-C | |
全長×全幅×全高[mm] | 4,495×1,840 ×1,545 |
4,495×1,840 ×1,540 |
駆動方式 | FF | FF |
ホイールベース[mm] | 2,640 | |
パワートレイン | EV用3軸平行軸減速機付トランスアクスル(AWFEC15)+ PCU(パワーコントロールユニット) |
2.0L直4自然吸気直噴GE (M20A-FKS)+ 3軸平行軸リダクション機構付 2モータートランスアクスル+PCU |
システム最高出力[kW@rpm] | 150 | 135 |
モーター種別 | 永久磁石同期モーター(4KM) | 永久磁石同期モーター(3NM) |
モーター出力[kW] | 150 | 80 |
モータートルク[N・m] | 300 | 202 |
トランスミッション | 無段減速機 | 電気式無段変速機 (E-CVT) |
減速比 | n.a. | 3.605 |
電池タイプ | 三元系リチウムイオン | ニッケル水素 |
電池容量/セル数 | 54.3kWh/288個 | 6.5Ah/180個 |
電池パック重量[kg] | 350 | ー |
電池冷却方式 | 空冷式 | 空冷式 |
航続距離[km] | 約300(WLTP)/ 400(NEDC) |
ー |
電力消費[kWh/100km] | 13.1 | ー |
充電性能(最大)[kW] | AC普通: 6.6/ DC急速: 50 |
ー |
充電時間 | AC普通(0-100%): 7時間/ DC急速(0-80%): 50分 |
ー |
ステアリングシステム | コラムアシスト式EPS | |
サスペンション:前/後 | マクファーソン・ストラット/マルチリンク(ダブルウィッシュボーン) | |
ブレーキ前/後 | ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク | |
ホイール径(インチ) | 17/18 | |
最高速[km] | 160 | 177 |
0-100km/h加速[km] | 7.5 | 8.5 |
荷室容量[L] | 367 | 320 |
空荷重量[kg] | 1,850 | 1,540~1,620 |
価格(ユーロ) | 50,000~ | 36,300~ |
備考 | HEV/コンベンショナルモデルLexus UX(UX250h/UX200)ベースのEVモデル。 -中国、欧州で2020年内、日本で2021年1月に発売予定。 -TNGA(Toyota New Global Architecture) GA-Cプラットフォームを採用してEVに最適化した。 |
EVパッケージ
UX300eではエクステリアおよびインテリアのエンジン車からの変更点は軽微にとどまるが、排気系から大容量電池への置換により車高を5mm上昇させて電池の搭載スペースを確保。リアシート位置・角度など車両後部のレイアウトをEVに最適調整した。荷室容量は増加した。
EVで要求が高まるエアロダイナミクスと静粛性については技術的工夫や専用部品の追加を行い、こだわった。アクティブグリルシャッターを搭載するなど車両内・車両周りの気流を最適化してベースUXからさらに空気抵抗を低減(係数0.33→0.31)。速度域の低い都市利用を主用途としたクロスオーバーモデルではあるが、EVとしての外観の差別化と航続距離延長を狙った。
静粛性についてはアンダーボディの拡大・平滑化やインシュレーションおよび制振材の追加、PCU(パワーコントロールユニット)をモータールームのメインクロスメンバーに取り付けて大電力制御で生じる高周波振動・ノイズの低減を図るなど、徹底。
また、EVの無音性への対応で、走行状態に応じた疑似音であるアクティブサウンドコントロール(ASC)のEV用を開発。ペダリングに応じたサウンドにより、快適な運転環境、車内環境を目指した。
ベースのUX(HEV含むエンジン車)との外装の変更点は軽微。
- デザイナーはエンジニアとの連携を密にして、ブランド最量販の都市型クロスオーバーとして既に支持を得ているUXをベースに、Lexusのデザイン言語と最先端のEV機能の両立を図った。
- 車体サイズについては大容量電池を搭載したことによりHEV(UX200h)比で全高を5mm上昇させた。
- 後席頭周り空間を16.4mm減らしたが、荷室容量を47mm拡大。
フロントグリル下部にエアロダイナミックシャッターを装備。電池の状態に応じて自動開閉し、空気抵抗係数(Cd値)0.33(エンジン車)から0.31への低減に貢献する。
- 運転中に発生する気流が冷却に必要な量を超えると、シャッターが閉じてグリルから入る気流を最適化する。
▽エアロダイナミクス
ビスポーク(専用)ホイール設計: 特別にUX300e用に設計された17または18インチのホイールを搭載。前者はスポークの両側にフラップを備えたエアロベンチレーティング(空力換気機能)を装備。F1レースカーのリアウィングに装着されるガーニーフラップと同様の形状で、空気の流れを調整し、ダウンフォースを高めるとLexusは主張。車の側面で発生する乱流を減少させる。また、ディスクの冷却効率を高めてブレーキ性能の安定化に寄与する。
▽NVH(ノイズ、振動、ハーシュネス)対策、音響
ブランド価値の根幹である静粛性には特に配慮。他社高級EVのノイズパターンをベンチマークし、車内のノイズ低減に注力した。
- 床下配置の大容量電池パックに遮音壁としての機能を持たせたほか、エンジン車比で拡大させた新開発アンダーボディ(カバー)を採用し平滑化。また、音響ガラスを採用。フェンダーライナー等シャシ、駆動系、ダッシュボード周りのフォームや制振材を改善。
- エンジン音がないことに起因して顕在化する、風切り音や小石、砂、水などの巻き上げ音を低減する。
- 低ノイズタイヤ: 18インチタイヤは静粛性、操縦安定性に優れる。17インチタイヤは類似のタイヤ中RRC(転がり抵抗係数)が最低値。高い応答性、優れたNV性能を発揮する。
- PCUをモータールームのメインクロスメンバーに装着。大電力制御で生じる高周波振動を抑制。
走行状態に応じた疑似音アクティブサウンドコントロール(ASC)を採用。
- ベースUXのスポーツグレード等に用いられる音響技術を応用。EVの無音性、PCUやギアなどからの異音への対応。
- 低~中音域を中心に、車両の走行状況に応じたサウンドをドライバーや同乗者に提供する。
車体構造
プラットフォームにはトヨタのTNGA GA-Cを採用し、EV仕様に改変・強化した。モーターをルーム下の低い位置に、大容量電池を車体下部に配置して重心高を下げ、前後重量配分や慣性モーメントを車両全体で最適に調整。EV化でベースUX比の重量を増やしながらも、車両の運動性能を向上させた。
電池はフロア下とリアシート下に2段構成で配置。電池保護のためにケース底部にビーム補強材を組み付け、安全性を確保した。パックには水やほこり対策のラバーシーリングを施した。
▽車体骨格
トヨタのCセグメント用低重心軽量高剛性プラットフォームTNGA GA-CをEV仕様に改変・強化した。
- モーターをルーム下の低い位置に、大容量電池を車体下部に配置して重心高を下げ、前後重量配分や慣性モーメントを車両全体で最適に調整。ベースUX比で重量を増やしながらも車両の運動性能を向上させた。
▽電池の搭載方式と保護構造
セル数288個の電池パックをフロア下とリアシート下に2段構成で配置。電池ケース底部の保護にはビーム状構造材を採用。パックには水やほこりから保護するためのラバーシーリングを施した。
- 2段構成の電池パック間に空隙を設置。冷却を促すための工夫とみられる。
パワートレイン、シャシ、運転機能
トヨタがHEVで培ったモーター制御技術を軸に、パワートレイン・ステアリング・サスペンション・ブレーキ等を統合制御し、理想的な姿勢制御を実現する。都市型クロスオーバーとしての性格上、スポーツ性よりも自然なハンドリングや快適性を追求した。加速特性は都市の運転状況に最適化。低スロットル時のストップ&ゴー走行中は速度制御が優先され、高速道路に合流する場合などの中~高スロットルでは継続的で強力な加速を行う。
パワートレインには出力150kWのアイシン・エィ・ダブリュ製EV用2 in 1トランスアクスル(モーター・ギア統合駆動モジュール)を搭載。PCUは別体式。デンソーの両面積層冷却技術による低熱抵抗・高出力密度・小型軽量HEV用PCUをベースにEV用に高出力化したものとみられる。HEV用同様の小型軽量設計でトランスアクスル頂上搭載・近接配置として、損失を低減した。
電池はパナソニック製の容量54.3kW三元系リチウムイオン電池を搭載。パック重量は350kg。安全性と軽量性を考慮して空冷式とした。温度管理機能を備え、空調と連携動作してパック内を冷気が循環して低温・高温時でも正常な動作が可能。過充電防止システムや多重監視システムも備え、高い信頼性を確保した。バッテリー保証は10年間または走行100万km。
シャシはTNGAの高い基本性能をベースに、EV化による運動特性の変化に合わせ、補強追加や専用部品を用いるなど細部までチューニングを施した。ドライブモードはパドルシフト操作によりエネルギー回生レベル(減速度)を4段階の強度で調整可能。EVならではの、ペダル操作に対しての瞬時のトルク立ち上がりによる力強い加速を体感することもでき、EVの利点を引き出した。
▽ドライバビリティ
HEVで培ったモーター制御技術を軸に、パワートレイン・ステアリング・サスペンション・ブレーキ等を統合制御。走行シーンに応じた駆動力コントロールを行うことで理想的な姿勢制御を実現する。
- EVの潜在能力を活かしつつも、モデルの性格やターゲット顧客を考慮し、スポーツ性よりも日常の使い勝手のためのニュートラルな乗り味や静粛性、快適性重視の方向に振った。
- 最低6万時間の研鑽を積んだLexusの「匠」マスタードライバーとエンジニアチームが緊密に連携してドライバビリティを追求。
- 加速特性を都市の運転状況に合わせた。低スロットル時のストップ&ゴー走行中は速度制御が優先され、高速道路に合流する場合などの中~高スロットルでは継続的で強力な加速を行う。
▽パワートレイン(2in1 トランスアクスル、PCU)
最高出力150kW、最大トルク300Nmのモーター・ギア統合2 in 1駆動モジュール(トランスアクスル/Eアクスル)を搭載(アイシン・エィ・ダブリュ製3軸ギアトレインオフセットタイプAWFEC15)。
トランスアクスルのギアには滑らかな走行のために歯面の研磨や潤滑系の改善を実施。
コンパクト設計の新PCU(インバーター)は別体式。
- デンソーの両面積層冷却技術による低熱抵抗・高出力密度・小型軽量HEV用PCUをベースに高出力化したものとみられる。
- HEV用同様の小型軽量設計により、トランスアクスル頂上搭載・近接配置を可能とし、エネルギー損失を低減する。
▽電池、熱マネジメント
パナソニック製の容量54.3kW新開発三元系リチウムイオン電池を搭載。パック全体の重量は350kg。
- 安全性と軽量性を考慮して空冷式の冷却システムを開発。
- 温度管理機能を搭載。空調と連携動作してパック内を冷気が循環し、低温・高温時でも正常な動作が可能。過充電防止システムや多重監視のセーフネットも備え、高い信頼性を確保した。バッテリー劣化を最小限に抑え、車両価値の維持にも資する。
- 豊田自動織機がEV用に新開発した大型電動コンプレッサーを採用したとみられる。冷媒をとり入れる空間を広く設計、アクチュエーター高速化等により従来型比で冷却能力を4割向上、従来比2倍長寿命化。部品の組み合わせを工夫し静粛性にも配慮。
- 電池ヒーティングシステムについては各電池モジュール下のヒーターエレメントが航続距離への寒さの影響を最小限に抑え、車両使用当初からのフルパワー使用を可能とする。
- バッテリー保証は10年間または走行100万km。
▽シャシ
GA-Cプラットフォームの高い基本性能をベースに、EV化による運動特性の変化に合わせ、細部までチューニングを施した。
- フロントサスペンションメンバーのステアリングギアボックスへの補強ブレースの追加により、リニアなステアリングフィールを追求。
- ショックアブソーバーにより減衰力を最適化した。
- タイヤ、前後ブレーキディスクを専用品にして制動力を強化した。
▽ドライブモード
パドルシフト操作でエネルギー回生のレベル(減速度)を4段階に調整(4段階目でペダルを離すと強回生でブレーキランプが点灯)。
- ユーザーは、EVならではの、ペダル操作に対しての瞬時のトルク立ち上がりによる力強い加速を体感することも可能。
内装、インフォテイメント、ADAS
▽内装、インフォテイメント
センターコンソールにはシフトバイワイヤ式のドライブセレクターを採用。エンジン車の従来型ギアシフトを置換し、EVに最適な操作系とした。
専用アプリによるスマートフォンとの連携で、バッテリー残量や航続、充電の必要があるかどうかなどを確認できる。
- 充電完了時間の把握、出発時刻に合わせた充電完了タイマー設定、エアコンやシートヒーター、デフロスターなどのリモート操作も可能。
▽ADAS(先進運転支援システム)
ADASはトヨタ最新世代の単眼カメラ+ミリ波レーダーによるレベル2相当の予防安全パッケージLexus Safety System +を設定。
FOURIN世界自動車技術調査月報
(FOURIN社転載許諾済み)