米中貿易戦争勃発!トランプが仕掛けるも、米国自動車メーカーが被る悲劇
7月に米国政府が中国からの輸入品に追加関税をかけたことに端を発し、米中貿易戦争が本格化した。米国が仕掛けた形ではあるが、追加関税の応酬や米中関係の悪化は米国産業にもダメージを与える。
米中貿易戦争が米国の自動車メーカーに及ぼす影響についてまとめた。
米中間で追加関税をかけ合い貿易戦争勃発
米中貿易戦争の火蓋が切られた。
7月6日、米国政府は知的財産権の侵害を理由に、中国から輸入する自動車・産業用ロボットなど818品目に25%の追加関税をかけると発表した。対する中国政府もすぐさま報復措置として、米国から輸入する自動車・農産物などの545品目を対象とした追加関税を同日に適用。8月23日には第2弾として米国が半導体、鉄鋼製品などの279品目、中国が化学製品・医療機器などの333品目に追加関税をかけた。両日をあわせると、追加関税の対象となる製品の総額は500億ドルにのぼる。
米中の対立の根は深い。米国は対中国で恒常的な輸入超過に陥っている。2017年の中国から米国へのモノの輸入額は5055億ドルだったのに対し、米国から中国への輸入額は1299億ドルだった。この差は3756億ドルで、米国が抱えるモノの貿易赤字(通関ベースで7957億ドル)の半分近くを占める。米国は中国に対してフラストレーションを抱えていた。
米国のドナルド・トランプ大統領は7月24日に “Tariffs are the greatest! Either a country which has treated the United States unfairly on Trade negotiates a fair deal, or it gets hit with Tariffs. ”(関税はグレイトだ!貿易で米国を不当に扱ってきた国が対等関係になる交渉に応じなければ、関税をくらわせる)とツイートしている。
米国が仕掛けた貿易戦争 自国の自動車業界にも波紋
しかし、米中貿易摩擦は米国産業にも大きなダメージを与える。特に被害が大きいのは、米中ともに追加関税の対象とした自動車業界だ。
ゼネラル・モーターズ(GM)は、2018年の1株あたりの利益を6.3~6.6ドルと予想していたが、7月25日に5.8~6.2ドルに下方修正した。鉄鋼やアルミニウムといった原材料が追加関税で値上がりしたことが響く。
原材料の価格以外でも、米国で販売するハイクラスSUV「エンビジョン」が懸念材料となっている。エンビジョンは中国の工場で生産したものを米国に逆輸入しているため、米国での販売には高関税が課せられるのだ。
フォード・モーターは追加関税が業績に与える影響を公表していないが、中国で販売を伸ばしている「リンカーン」が収益を圧迫する可能性がある。
リンカーンはフォードの高級車ライン。中国では2014年に発売以来好調に売り上げを伸ばしており、2017年の販売台数は前年比66%増の5.4万台だった。だが、リンカーンは米国で生産したものを中国に輸出しているため、追加関税の対象になる。フォードは2020年までにリンカーンの世界新車販売台数を30万台に引き上げるとの目標を掲げているが、その達成も危うくなるかもしれない。
追加関税でかかる費用は販売価格に上乗せするか、メーカーや販売会社が吸収することになる。しかし、価格に反映すれば販売の鈍化につながりかねず、価格を据え置いたとすればメーカーや販売会社の収益が悪化する。いずれにしても、米国の自動車業界へのダメージは避けられない。
中国政府の圧力に不買運動…心配の種は尽きない
2009年に中国は販売台数で米国を抜いて世界最大の自動車市場となった。2017年の販売台数は2912万台で、全世界の3割以上を占める。自動車メーカーが成長していくには中国でのシェア獲得が重要で、世界の自動車メーカーはこぞって中国事業の強化に乗り出している。
しかし、米中関係が悪化すれば中国政府は米国自動車メーカーの事業拡大を阻もうと何らかの措置を打ち出す可能性も。加えて、中国メディアが米国のイメージを悪化させるような報道をすれば、中国の消費者は米国製自動車に対して不買運動を起こすことも予想される。最大の自動車市場で足場を狭めてしまった場合、業績悪化は避けられない。
6月29日、GMは米商務省に意見書を提出した。米国政府の措置が販売台数の減少や従業員のリストラ、給料の引き下げなどにつながりかねないとし、追加関税に反対している。米国政府が引き起こした米中貿易戦争ではあるが、米国の自動車メーカーが受ける恩恵はない。
(オートモーティブ・ジョブズ編集部 山岡結央)