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自動車の電子制御装置の進歩が著しい今、電気装置整備の専門家である自動車電気装置整備士が注目されています。この記事では、自動車電気装置整備士の資格、国家試験の内容、合格率や勉強方法、資格取得のメリットなどについてわかりやすく解説します。
自動車電気装置整備士とは
電気装置整備の専門家に与えらえる国家資格
自動車電気装置整備士(電装整備士)は、自動車の電気装置の整備に関する専門家に与えられる国家資格です。
進歩を続ける自動車の電子部品に対応できる高い整備力、診断や調整への技術力が必要になってきています。自動車電気装置整備士は専門的な知識と技術で、今後さらに高度化する電気装置のスペシャリストとして需要が高まることが予想される資格です。
自動車電気装置整備士の資格|自動車整備士との違い
ここでは、自動車電気装置整備士の資格について解説していきます。
自動車電気装置整備士は、国家資格である特殊整備士のひとつです。
特殊整備士とは、1級、2級、3級の自動車整備士とは異なった資格で、専門性の高い分野に特化した資格となります。自動車整備士資格のオプション的な位置づけ、と考えればわかりやすいと思います。
自動車の車体やフレームの整備、修復の専門家である自動車車体整備士や、タイヤに関する専門家の自動車タイヤ整備士も特殊整備士です。
自動車整備士と自動車電気装置整備士の違い
1級および2級自動車整備士の国家資格でも電気装置に関する知識は有していて、整備は可能です。しかし、自動車電気装置整備士はより専門的で高度な知識と技術を持っています。
注意しなければいけないのは、自動車電気装置整備士の資格単体では、分解や取り外しを伴う整備はできないということです。
整備工場に勤務して電子制御装置の整備に携わりたいということであれば、自動車整備士資格を取得してから自動車電気装置整備士の資格にチャレンジする、というルートを取るのがいいのではないでしょうか。
自動車電気装置整備士の試験|試験内容、合格率、勉強方法
自動車電気装置整備士の登録試験とは
ここでは自動車電気装置整備士資格の取得方法について解説します。
資格取得には国家試験(学科・実技)を受ける必要があります。試験には、国(国土交通省)が実施する「技能検定試験」と、一般社団法人日本自動車整備振興会連合会(日整連)が実施する「登録試験」があります。
日整連は国土交通大臣の登録を受けている機関(登録試験実施機関)ですので、「日整連の登録試験に合格すれば、国の技能検定試験が免除される」ということになります。
登録試験に合格すれば、2年間は技能検定試験が免除になります。登録試験に合格したら必ず、有効期間内に自動車整備振興会に免除の申請(全面申請)をしてください。登録試験に合格しても、申請をしないと国の技能検定試験が免除にはならないので注意してください。
自動車電気整備士試験の詳細
日整連が実施する登録試験の詳細は以下の通りです。
試験日 | 年1回 |
---|---|
試験内容 | 【学科試験】 基礎工学、法規、検査、電気の基礎、バッテリー、充電装置、始動装置、灯火・保安装置、冷暖房装置、電子制御装置、法令 |
【実技試験】 基本工作/点検、分解、組立、調整及び完成検査/修理/整備用の試験機、計量器及び工具の取扱 |
|
受験資格 |
実務経験(学歴により1年以上~2年以上)
※実務経験証明書が必要 |
出題数 | 【学科試験】40問 |
【実技試験】3問 | |
合格基準 | 【学科試験】
|
【実技試験】
|
|
合格率(学科) | 48~87%(中央値は70.1%) |
出典:全国自動車電装品整備商工組合連合会サイト、国土交通省サイト
自動車電気装置整備士の登録試験は、年に1回のみ行われます。
国が実施する技能検定試験は、学科試験が7月ごろ、実技試験が9月ごろに実施されます。
日整連が実施する登録試験は、学科試験が3月ごろ、実技試験は8月ごろに行われます。
試験内容は「学科」と「実技」があります。
学科は、基礎工学、法規、検査、電気の基礎、バッテリー、充電装置、始動装置、灯火・保安装置、冷暖房装置(フロン類回収、破壊法)電子制御装置、法令などが出題されます。
実技は、基本工作、点検・分解・組立・調整及び完成検査、修理、整備用の試験機・計量器および工具の取扱などが出題されます。
試験資格は実務経験が必要です。実務経験の年数は、学歴やお持ちの資格によって異なります。下記の記事内にある「特殊整備士」の項目でご確認ください。
「受験資格について」(国土交通省ホームページ)
自動車電気装置整備士試験の合格率、難易度
続いて、自動車電気装置整備士の登録試験の受験者数や合格率について解説します。
平成24年以降の一覧はこちらをご覧ください。
年度 | 申請者数 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|---|
平成24年度 | 25 | 25 | 16 | 64.0 |
平成25年度 | 34 | 34 | 26 | 76.5 |
平成26年度 | 20 | 20 | 17 | 85.0 |
平成27年度 | 66 | 66 | 41 | 62.1 |
平成28年度 | 86 | 85 | 62 | 72.9 |
平成29年度 | 73 | 71 | 50 | 70.4 |
平成30年度 | 48 | 47 | 23 | 48.9 |
平成31年度 | 52 | 52 | 31 | 59.6 |
令和2年度 | 56 | 53 | 42 | 79.2 |
令和3年度 | 315 | 311 | 271 | 87.1 |
令和4年度 | 502 | 497 | 331 | 66.6 |
自動車電気装置整備士の合格率は、48~87%(平均70.2%)と幅があります。直近3年分の合格率を見てみると、66~87%(平均77.6%)とそれまでに比べて上昇している傾向がありそうです。
日整連が公表している自動車整備士の国家試験(学科、令和2~4年度)の平均合格率と比べてみましょう。
- 1級小型 約53%
- 2級ガソリン 約72%
- 3級ガソリン 約71%
- 車体整備士 約90%
他の自動車整備士資格と比べてみると、自動車電気装置整備士の平均合格率77.6%はそれほど低くない印象です。決して難易度が高すぎるということはないのではないでしょうか。
自動車電気装置整備士試験の勉強方法
自動車電気装置整備士の学科試験の勉強は、過去問題を解くという方法があります。
インターネット上に過去問題と解答が用意されていますので、そちらを利用すると良いでしょう。
技能検定試験の過去問題(学科、実技)は、国土交通省のサイトで近年の分が公開されています。
登録試験の過去問題(学科)は、全国自動車電装品整備商工組合連合会のサイトで平成16年度以降の分が公開されています。
これらの問題をたくさん解くことで、出題の傾向をつかんだり、試験本番の予行練習ができます。
自動車電気装置整備士の講習について
自動車電気装置整備士には、技術習得のための講習会があります。
各都道府県にある全国自動車電装品整備商工組合および自動車整備振興会が主催するもので、毎年10月から3月ごろにかけて行われます。
受講資格は、技能検定試験や登録試験と同じく、1年以上から2年以上の実務経験が必要になります。受講を希望される都道府県の全国自動車電装品整備商工組合のホームページに詳しい内容が掲載されていますので、そちらをご確認ください。
『二養講習会について』(全国自動車電装品整備商工組合連合会ホームページ)
受講には費用が必要です。組合員と非組合員で料金は異なりますが、4万円から10万円程度の金額となります。
講習会を受講することで、実技試験が免除になる特典があります。こちらも登録試験と同様に、講習修了後に2年以内に自動車振興会で免除申請が必要です。
自動車電気装置整備士資格取得のメリット
自動車電気装置整備士の将来性
自動車電気装置整備士は増加傾向にあるようです。
「自動車電気装置整備士試験の合格率、難易度」の項に掲載した一覧表の中の「申請者数」「受験者数」「合格者数」をご覧いただくと、年々増加していることがわかります。特に、自動車特定整備事業が施行(令和2年4月1日)された翌年の令和3年から、大きく増えています。
従来の分解整備に電子制御装置の整備を加えた特定整備へと変わったことで、自動車電気装置整備士への関心が増したこと、また、特定整備認証工場の認定を得るための条件に、自動車電気装置整備士が加わったためと推測できます。
高度な電子装置への対応が必須となる今後は、自動車電気装置整備士の需要が高まると予想されますので、資格保有者はさらに増えていくのではないでしょうか。
転職で有利になる
すでに2級以上の自動車整備士資格をお持ちの方であれば、自動車電気装置整備士の資格を取得することで、転職で有利になることもあります。
自動車の自動運転化が進んでいく今後、自動車整備は自動運転や自動ブレーキを正しく作動させるカメラやセンサーなどの電気制御装置が中心になっていくと予想されています。
電気装置整備士の資格を取得することで、専門的で高度な整備ができる証明になります。電子制御装置整備に力を入れているディーラーや整備工場への転職で有利になることは十分に考えられます。
まとめ
この記事では自動車電気装置整備士について解説しました。
今後、自動車の電子化技術がより高度化していくことが予想される中、電気装置整備のスペシャリストである自動車電気装置整備士の需要はますます増えていくことでしょう。
ただし、資格取得をしたからOKということではありません。
資格取得後も継続して先進技術についての知識の習得、法令への対応は欠かせませんので勉強を続けていく姿勢が大切です。
取得することでメリットも多い資格ですので、ぜひ挑戦してみてはどうでしょうか。