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整備士不足はどこまで深刻化する?
解消はするの?
年収や仕事の将来性は?

更新日

近年、自動車整備士の人材不足が深刻化しています。人手不足は解消できるのか、整備士を続けて大丈夫なのか。最新データを用いて実情をお伝えしたのち、整備士の今後についても解説していきます。

深刻化する整備士不足|最新データで現状を見る

自動車整備士が減っている

自動車整備士の人材不足が深刻化しています。

自動車整備士を目指す若年層が減少(自動車整備学校の入学者は10年で半数に)する一方で、自動車整備士の平均年齢が年々上昇して”整備士の高齢化”が進んでいます。近い将来、更なる人手不足に陥ると予測されています。

下図は、平成24年から令和3年までの10年間の整備要員および自動車整備士の数を表わすグラフです。

整備要員数および自動車整備士数の推移

出典:『自動車整備白書 令和3年度版』を基に作成

国家資格を保有する自動車整備士は10年間に約1.2万人減少しています。

整備士不足の原因には「少子化」「若者の車離れ」「職業選択の多様化」「自動車技術の進歩による整備項目の増加」などが挙げられています。

整備工場の5割以上が「人手不足を感じている」という統計データもあり、予断のならない状況が続いています。

有効求人倍率は他の職種の4倍以上

人材不足の深刻さがわかりやすく現れている指標が、有効求人倍率です。

有効求人倍率とは、公共職業安定所(ハローワーク)に登録してある仕事の数に対する、働きたい人の数です。いわば「就職しやすさ」を測るものさしと考えていいでしょう。有効求人倍率が1より大きければ「働きたい人よりも企業側の求人数が多い」状態となります。

令和3年度の数値では、全産業の有効求人倍率は1.05です。それに対して、自動車整備士の有効求人倍率は4.55倍。全職種平均の4倍以上という非常に高い数値で、企業の求人枠に対して働きたい人が大きく足りていない状態です。

自動車整備士の有効求人倍率は、もともとこれほど高かったわけではありません。

自動車整備士の有効求人倍率の推移

平成23年度の自動車整備士の有効求人倍率は1.07倍で、全職種平均の0.59倍よりはやや高いといった印象でした。それが約10年間で4倍以上に跳ねあがったことになります。

なぜこれほどまでに働き手が少なくなったのでしょうか。

整備士不足の原因

整備士不足を招いた原因として次のものが指摘されています。

  • なり手不足(自動車整備士を目指す若者の減少)
  • 整備士の高齢化
  • 離職率の高さ

ひとつずつ詳しく見ていきましょう。

なり手不足

自動車整備士不足の大きな要因として、なり手不足、つまり自動車整備士を目指す若年層の減少が指摘されています。

自動車整備士の国家資格を取得する登竜門として、高等学校卒業後に自動車整備科のある学校(自動車整備学校など)への進学があります。

こちらのグラフをご覧ください。高等学校を卒業し、自動車整備士になるための自動車整備学校に進学する人の数を表わしています。

自動車整備学科への入学者数の推移

出典:『学校基本調査』(文部科学省)を基に作成

近年は減少傾向が緩やかですが、2003年ごろまでは約1万2千人の入学者がいたので、40%弱も減ってしまいました。当然、自動車整備学校を卒業してから自動車整備の仕事への就職者数も減少します。この「なり手不足」が整備士不足の理由の一つになっています。

では、なぜ自動車整備学校の入学者数が減少し、「なり手不足」になっているのでしょうか。

なり手不足には次のような原因があると考えられています。

  • 少子化
  • 若者の車離れ
  • 職業選択の多様化

少子化による自動車整備士のなり手不足

自動車整備士のなり手不足には、少子化が大きく関係しています。

整備士の平均年齢である50歳前後は、第二次ベビーブームと呼ばれた世代です。たとえば1973年の出生数は約209万人でした。出生数はその後ずっと右肩下がりの状態が続き、2005年の出生数は約106万人。出生数は30年の間に約半数になってしまいました。

そして2020年には過去最低の出生数である約84万人となりました。

若者の車離れも整備士不足の要因に

若者の車離れも、整備士不足の要因と言われています。

車離れについては様々に分析されて、アンケートなどの意識調査のデータも充実しています。
大きな要因では「維持費が高い」「購入費用が高い」といった経済的な理由が挙げられています。ですが、これまでもマイカーを購入してきた若年層はたくさん存在するわけですから、おそらくは「高い維持費、購入価格と車の魅力が見合わなくなった」と言い換えられるかもしれません。

職業選択の多様化による整備士減少

若年層が自動車整備士という道を選ばない理由として、選択できる職業が多様化してきたことも背景にあります。

かつては、中学生がなりたい職業のTOP10に自動車整備士がランクインしていたこともありましたが、現在では圏外にランクダウンしています。

その理由として、若年層が自動車整備士に対し「体力的にきついし、汚れることも多い。その割に給与が低い」といった負のイメージを持っているため、という指摘もあります。

他にも、自動車整備士の人気が下がったというより、他の職業の人気が上がったという見方もできます。

少子化で若年層が減り、いろいろな職業の選択が増えた中で、イメージを良く思っていない車関係の仕事を選ばなくなっている、という事情があるようです。

自動車整備士の高齢化

現役の自動車整備士の高齢化も問題視されています。

一般社団法人日本整備振興会連合会(日整連)が発表する『自動車整備白書 令和4年版』によれば、自動車整備士の平均年齢は46.7歳(専業で52.1歳、ディーラーで36.8歳)となっています。

平成29年度 平成30年度 令和元年度 令和2年度 令和3年度 令和4年度
専業 50.3 50.8 50.9 51.2 51.8 52.1
兼業 46.1 46.3 46.8 47 47.7 48
ディーラー 35 35.3 35.5 35.7 36.4 36.8
平均 45 45.3 45.5 45.7 46.4 46.7

出典:『自動車整備白書 令和4年版』(国土交通省)を基に作成

「40歳だけど工場では最も若い」ということも特別珍しくないと言われています。

高齢化が進む整備工場に若い世代が就職しても、世代間で価値観の違いやズレが生じて離職に繋がることもあるようです。たとえば、体育会系の根性論が若い世代にとってはストレスを生む、というような理由です。

そして、高齢化した整備士の定年、体力面の問題による離職も要因となっています。

離職率の高さ

なり手不足、高齢化に加えて、離職率の高さも指摘されています。

自動車整備士の離職率は18~20%というデータがあります(厚生労働省『雇用動向調査結果の概況』より)。他の業種と比べても非常に高い数値です。

自動車整備士の主な退職理由は次の5つです。

  • 賃金の安さ
  • 休日の少なさ
  • 将来性
  • 人間関係
  • 労働時間の長さ

離職した整備士からこのようなコメントが寄せられています。

「残業しても手取り20万弱。労働時間が長いのに安すぎる」(25歳、ディーラ―勤務)
「休みは取れる。でも、家族と休みが合わなくてつらい」(38歳、ディーラ―勤務)
「親族経営ならではの閉塞感がある。馴染めず辞める整備士は多い」(40歳、認証整備工場勤務)
「繁忙期は深夜になったり、朝までやったことも」(40歳、ディーラ―勤務)
「このまま整備士やってても大丈夫なのか心配が尽きない」(35歳、指定整備工場勤務)

このような不安や不満が解消されていかないと、高止まりしている離職率を下げることは難しいのではないでしょうか。

自動車整備士不足のデメリット

自動車整備士が不足することで、整備業界が立ち行かなくなるばかりか、自動車ユーザーにとってもデメリットが発生します。

整備に時間を要する

自動車を保有していれば、車検、故障、事故などで自動車整備工場に依頼することは必ずあります。作業をするのはもちろん整備士です。整備士がいなければ整備も修理も行えません。

自動車の保有台数は平成24年から令和3年の10年間で約300万台増加し、約8,207万台(令和3年)となっています。整備士1人あたりの自動車の台数は増えている状況です。

整備士の人手が足らなければ、修理に時間を要します。本来は数時間で終わる修理が、整備の順番待ちで数日、事によってはもっと長期にわたることも考えられます。

しかしこれは良心的な整備工場の場合です。整備工場側に悪意があれば、実施していない整備を「した」ことにして、納車してしまうことも実際に起きています。もちろんこれは犯罪行為にあたります。ユーザーは整備費をだまし取られたことに加え、自動車の寿命を縮め、安全な走行ができない由々しき事態に繋がります。

不正が増える要因にも

近頃、指定整備工場で不正車検が摘発されています。不正車検とは、検査を受けた自動車が保安基準を満たしていない、または適合検査をしていないにもかかわらず検査に合格させることです。

不正車検が発覚すれば、指定整備工場の取り消しや営業停止など非常に重い処分が下ります。それにもかかわらず不正車検が後を絶たないのは、自動車整備士の人材不足も一因と言われています。検査しなくてはならない台数が多く、整備士の手が足りないがために”検査したこと”にしてしまうのです。

車検は指定整備工場にとって売上の柱です。少人数の整備士ではさばききれない台数を入庫させてしまうような営業の体制も指摘されていますが、そのしわ寄せを受けるのは整備士なのです。

整備士不足への国の対策

自動車整備士の人材不足について、自動車の安全な運行に影響があるとして国は「深刻な問題」との認識を持っています。

国土交通省は平成25年から人材不足の背景にある課題を解決するために官民一体となった対策チームを設置し、対策を練っています。

2023年3月に、その中間とりまとめが発表されました。主な人材確保の対策として以下の3つの柱が提示されました。

■人材の募集
  1. 自動車整備士の認知度を早期段階から高めるため、若年層(小学生、中学生等)への自動車整備士のPR強化
  2. 自動車整備士が職業として認識されて選択されるため、高校生等を対象とした整備工場における仕事体験
■人材の定着
  1. 自動車整備業の職場環境改善を支援するため、自動車整備士の働きやすい職場ガイドラインを策定し、事業者の達成状況を評価
  2. 短時間勤務、週休三日勤務などの自動車整備士の多様な働き方の提示について意識を喚起するため、国による経営者向けセミナーの開催
■人材の育成
  1. 地域の整備事業者が合同で行う先進技術の研修に対する支援
  2. 整備士養成施設におけるVR教材や最新車両(安全・環境技術搭載車両)等の導入に対する支援

今後は、これらを実行段階へと進めるとのことです。

女性整備士が働きやすい環境整備

全国には約1万人の女性整備士がいます。

さらなる女性整備士の活躍、育成を後押しするために、国土交通省と自動車業界は平成25年から勉強会を開催し、女性整備士が働きやすい職場環境づくりのガイドラインを設けて推進しています。

参考:「自動車整備業における女性が働きやすい環境づくりのためのガイドライン」(国土交通省のサイト)

整備業界では女性が活躍できる場面がたくさんあります。接客もその一つでしょう。重い部品を持ち上げたりすることも、今ではサポートするツールもあり大きな問題ではなくなっています。

特定技能制度による外国人整備士の受け入れ

自動車整備士の人材確保で、女性整備士とともに外国人整備士にも注目が集まっています。

特定技能制度とは、国内での人材確保が困難な産業分野で、専門的技能を持った外国人の受け入れが可能になる制度です。

自動車整備は12種類ある分野のひとつ(特定技能1号)です。2019年から受け入れが可能になりました。

今後の期待が高まる制度となっています。

自動車整備士の将来性

深刻化する整備士不足について「整備士を続けて大丈夫だろうか」「目指していいのかな」と不安を覚える現役整備士さん、学生さんも多いかもしれません。

課題もある自動車整備士の仕事ではありますが、将来性は十分にあると言われています。

整備士の需要が高まる

1章で述べた通り、自動車整備士は慢性的な人手不足です。
しかし、言いかければ自動車整備士の需要が高い状態です。求人数が多い状態なので、希望条件に合う会社を選ぶことも難しくはありません。

有効求人倍率の高さは人材不足を物語る側面もありつつも、「売り手市場」でもあるということです。

自動車整備士としての経験を積めば、より条件のいい職場に出会える可能性も十分にあると捉えていいでしょう。

整備士の給与は上がっている

年々、自動車整備士の年収は、上昇しています。

平成29年度 平成30年度 元年度 2年度 3年度 4年度
専業 3,523 3,539 3,571 3,604 3,624 3,646
兼業 3,742 3,722 3,786 3,814 3,840 3,892
ディーラー 4,569 4,661 4,606 4,660 4,685 4,805
平均 3,875 3,911 3,924 3,963 3,987 4,044

出典:『自動車整備白書 令和4年版』(国土交通省)を基に作成

徐々にですが、自動車整備士の平均年収がアップしていることがわかります。

令和4年には、自動車整備士の平均年収が400万円台に突入しました。

今後も自動車整備士のニーズが高まることを考えると、平均年収はさらに上昇していくと考えられます。

転職で悩みが解決する事も多い

整備士の離職率について、離職理由について述べましたが、それらの悩みや不安は転職することで解決することもあります。

給与や労働時間、待遇について諦める必要はまったくありません。整備士としての資格、経験を高く評価してくれる企業を探してみるといいでしょう。貴方のキャリアに対して、正しい評価を与えてくれる会社は思っている以上にあります。

将来性については、おそらくお勤めの会社の風土や評価制度、ビジネスモデルへの不安が大きいのではないでしょうか。

そちらについても、ぜひいろいろな会社の取り組みを見てみることをお勧めします。同じ自動車整備業でも、会社によって経営理念や評価制度はさまざまです。貴方にフィットした、納得のいく会社がきっとあるはずです。

まとめ

自動車整備士の人材不足は社会的な問題です。

修理が必要な自動車を直せないこと、そして安全な自動車の運行ができなくなるという社会的なリスクを含んでいるからです。

自動車整備士は、車やオートバイが好きな方、機械いじりが好きな方にとってはとても魅力的な仕事であることは間違いありません。しかし、仕事は生活を支える基盤ですので、賃金ややりがい、働きやすさなどは看過できないポイントです。

自動車の保有台数の拡大、自動車に使われる技術の高度化、修理をして長期的に使用するスタイルへのシフトなど、自動車整備士の仕事は今後ますます重要になり、需要が高まると予測できます。

そのためにも整備士不足を招いている課題は必ず解決しなければなりません。

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